宇宙船から空飛ぶ車まで 航空宇宙技術研究センター 一般公開見学
国産スペースシャトルは今
(その1:スペースミッションシミュレータ)
この写真はスペース・ミッション・シミュレータ。一般公開の中でも大人気で、30分以上待ちました。
内容は、地球の飛行場を出発して、ラムジェット、スクラムジェット、ロケットとエンジン出力を次々に切り替えて行って、宇宙ステーションにドッキング。再び地球に戻ってくるまでの体験を行うもので、運良く最前列に座れた2人はシミュレータの操縦が出来ます。
ところでこれは、アメリカのスペースシャトルではなく、国産スペースシャトル、つまり日本が作った宇宙船に乗る体験を行うものです。
「え、国産の宇宙船?そんなものがあるの?」
「ある」というと実は間違いかもしれませんが、かなり本気で作ろうとしていたことはあり、その舞台が、ここ航空宇宙技術センターというわけです。いや、ひょっとすると今でも?。
国産スペースシャトルは今
(その2:強度試験用供試体)
左の写真が国産スペースシャトルの実物大模型。
建物や後ろにいる人間と比較するとその大きさがわかります。
模型とは言っても、単なるモックアップではなく、機体の強度を試験するために、実際の材料(炭素繊維強化プラスチック)で作られた、つまり外側は本物と同じというわけです。
中も見ることができますが、当然ながらガランドウです。
後ろの建物がこのプロジェクトに関する研究をやっているところのようなので、お話を聞いてみました。
国産スペースシャトルは今
(その3:小型自動着陸実験機)
「実は、国産スペースシャトルの計画は、もうずいぶん前に凍結されてしまったのですよ。個人的には是非やりたいのですが、お金がないと人も減っていって...。」
担当の方に伺ったところ、こんな答えが返ってきました。
「でも、凍結された後も、細々とはやっておりまして...。」
主に行っているのは、無人機による、離着陸や高速飛行の実験。
写真は平成8年にヘリコプターから落として着陸の実験をした無人機のものですが、平成14年には、南太平洋のクリスマス島という所で、飛行場から離陸して飛行した後、無事着陸するという実験にも成功しています。
「またクリスマス島で実験とかしないんですか」と伺ったところ、「どんどん規模が縮小されていくので、もっと小さなものでやることになるのではないかと思います。北海道の大樹町というところに、実験のできる飛行場があるので、そこを使うことを考えているのですが...」との事でした。
写真は最も最近、平成15年にスウェーデンで気球から落として行われた高速飛行実証実験の機体ですが、ボロボロになった機体が、国産スペースシャトルの末路を象徴しているようでなんとも憐れです。
予算がないのは、一つには、アメリカから無理やり作れと言われて、作った挙句に「あ、あれ、もう要らないから」と言われてポイされる(セントリフュージという宇宙実験設備の話)開発とか、北朝鮮が怪しいから急にスパイ衛星を4つも上げろと言われたり(これもアメリカの差し金かもしれませんが)とかいう開発のお金が、すべて別枠ではなく、一定額のJAXAの全体予算の中から出て行くので、結果として、日本独自で進めてきた研究の分がどんどん減らされて行く、と聞いたことがあります。
個人的には、いいかげん日本政府にアメリカと手を切ってもらって、是非国産宇宙船が飛ぶところを見たいものだと思いますが、そんな話を私が言ったところで野良犬の遠吠えにもなりません。
極超音速風洞 左の写真は、風洞実験設備の中でも、一番早い速度が出せる超音速風洞ですが、ここでも、展示に使われている模型は国産スペースシャトルです。
「プロジェクトは凍結されているのに、なぜ?」と伺うと、「この風洞は、マッハ10という、宇宙船が地球に再突入するときの速度で試験ができるようになっていて、いわばそのために作った風洞とも言えるわけです」とのこと。
恐らく、このセンター挙げてのビッグプロジェクトということだったのでしょう。
ついでに、この風洞で伺ったトリビアを一つ。
写真は、風洞の中の模型で、表面につけられている点々が風を受けて変化する様子を見るわけですが、この点々、デジタルなものではなく、アルバイトの女性が、筆で一つ一つ模型に書いていくのだそうです。それでないと流れが見えないのだそうですが、最先端技術の意外なローテクです。
航空宇宙技術センターには、このほか、風の速度や用途別に、たくさんの風洞があります。
あまりにたくさんあるので、一般公開では、風洞を回るシールラリーをやっていて、全部回ると景品がもらえます。
このお姉さんはもちろんJAXAの方。「シール張りしようか?」などと子供に呼びかける様子がまるで幼児番組のお姉さんみたいで、本当にこどもが好きなのでしょう。可愛い女性は目篭版D.P.Zのお約束。
空飛ぶ車「フライングカー」
さて、ここからは、現在行われている最先端技術の研究をご紹介していきます。まずは本当にびっくりしたのがこれ。
壁掛けテレビやロボットなど、子供の頃にマンガやSFに描かれていたことは、現在ほとんど実現されてしまっているので、「ないのは車が空飛ぶことぐらいだ」とよく言われるのですが、さすがは日本の航空機研究の総本山、ちゃんとやっています。
しかも、担当の方のお話は、「いやもう、技術的には全然問題ないです。ただ予算がなくて実物が作れない」とのこと。ええ~っ!。
この特集冒頭の写真の方がわかりやすいのですが、車の前後のトランク部分にたくさんのファンがついています。このファンが現在試作品で削りだしで作っているので、1個1千万円くらいかかるとのこと。写真を数えて見るとざっと24個あるわけで、試作機段階では確かにすごい値段の車になるわけです。
(もちろん試作品でなく、量産すればぐっと安くなるわけで、話の中で1万5千円くらいになると聞いたような気もしますが、これは聞き違いかもしれません。)
この研究は、もともと垂直離着陸飛行機(VTOL)を研究している部門がやっていて、技術的には、推力の面でも、燃料の面でも、特に問題はないのだそうです。自家用車の形で大体200kmくらいは飛べるんじゃないかと言っていました。
でこちらの動画が、地上走行状態と、飛行状態の変化。
動画を編集する環境がないので撮ったそのままなのと、ブログに張るのがはじめてなので、うまくいっていなかったらすみません。
(動画を貼る練習のために、この記事を少し変えました。2006.10.09)
お金がかかるとはいえ、こればっかりは誰も実現できないと思っていたものが、逆にいえばお金さえあれば実現できる所まできているわけですから、残念でなりません。その場にいた見学者はお互い知らない間柄でしたが、皆で大いに盛り上がり、「モーターショーに出したら?」「映画とタイアップしたら?」などと口々に好きなことを言っておりました。
ヘリコプターの騒音を消す ヘリコプターといえば、あの特有のバタバタバタバタというすごい騒音が特徴ですが、あの音は、ヘリコプターの羽根の端から出た渦が、再び羽根にぶつかった時に出る音なのだそうです。
それで、羽根の端に、写真にあるように、出たり引っ込んだりする小さな羽のようなものをつけて渦のでき方を変え、ちょうど羽とぶつかるタイミングには渦が当たらないようにしてやると、なんと音が消えるのです。
実際に聞かせてもらいましたが、本当に音が静かになります。
すごい技術だと思いますが、これも、実際のヘリコプターに搭載して実験するお金がなく、実験ができないのだそうです。
「(次にご紹介する)SSTに出している予算をほんのすこし分けてくれれば」とおっしゃっていましたが、別の件で以前、SSTの方にご質問した時に「限られた予算をやりくりしているので、そこまではなかなか...」というお答をいただいたことがありますので、門外漢にはわからない、それぞれの事情があるのでしょう。
小型超音速実験機 で、これがそのSST(Super Sonic Transport)。
成田=ニューヨークを5~6時間で結ぶ超音速旅客機のための基礎研究です。
昨年、オーストラリアのウーメラというところで実験に成功した機体で、エンジンはなく、ロケットで打ち上げて超音速を出し、空気の抵抗が減るデザイン技術などを検証したものです。
最近の実験のため、報告がいろいろなところでされているせいか大変な人気で、見学者が途切れず、肖像権に配慮していると必ず誰かが入ってしまって、写真が撮れません。
仕方がないので、この写真は逆転の発想。写真を撮った後で前に写り込んでいる方々にWeb掲載の許可を貰いました。
JAXAにはエコマークは取れない
(その1:宇宙にはゴミがいっぱい)
写真を見てください。これは世界地図で、黄色い点がその上空にある宇宙のゴミです。宇宙のゴミというのは主に使用済みになった人工衛星のことで、なんと9000個もあるんです。
まだこの高度のの民間宇宙飛行は実現されていないわけですから、地上のゴミとの決定的な違いは、これら9000個のゴミは、一般人ではなく、すべて各国の国家機関が、それも業務中に捨てたものだというところにあります。
JAXAにはエコマークは取れない
(その2:ゴミを見つけるための超技術)
とにかくこのゴミをなんとかしなければいけないというので、いろいろな技術が開発されています。
写真は美しい映像ですが、主役は光っている人工衛星ではなく、実はこれがゴミ。
左側の3つのカメラがついている影の方が主役で、太陽光と、地球の映像を手がかりにして、人工衛星がゴミかを判別します。
ゴミは壊れた人工衛星なので、地球に対して変な動きをするためわかるのだそうです。ゴミだとわかると、近づいていって処分します。処分の仕方は、次のお話で。
JAXAにはエコマークは取れない
(その3:未だに後始末なしで打上げ) 宇宙のゴミをどうやって処分するかと言うと、地球に落とすのです。落とすと、大気圏に突入して燃えつきてしまうので、焼却処分になります。つまり仕事が終わったのにまだふらふら衛星軌道上に浮かんでいるのがゴミなんですね。
ならば、仕事が終わったらさっさと落としてしまえばいいと思うのですが、落とすためには燃料が必要で、その燃料も合わせて打ち上げると、コストが高くつくので、いまだに、後始末のことは考えずに打ち上げている衛星がほとんどなのだそうです。
後でゴミになるとわかっているものを、いまどき何の対策もしないで打ち上げているのでは、JAXAは、エコマークを当分取得できそうにありません。
それで、安く地上に落とすための技術がこの写真。ただのヒモですが、ヒモに電流を流すと、フレミングの法則で力が起きます。宇宙ではこの力でも充分で、だんだんと軌道を外れて1年ぐらいかけて地球に落ちてくるそうです。この前でお話したゴミ取り衛星も、このヒモをゴミ衛星につける手はずになっています。
「こんなヒモぐらいみんなつけて飛ばせばいいのに」と思いましたが、担当者のお答えはなんと、「いや、この技術、つまりヒモでうまくいくかどうかの実験をするための予算がないんです」との事。
この日何十遍も聞いたセリフではありますが、いまどき環境に配慮しない企業・団体なんて誰も相手にされないわけで、ゴミの分別や昼休みの消灯、パソコンの省エネ設定などと、日夜イジメられている企業人から見れば、信じられないような話です。
せっかくの技術を無駄にしないために
今回、航空宇宙技術研究センターには初めて伺ったのですが、びっくりするような技術やすごい技術がたくさんありました。しかし、皆さん口をそろえて「予算がない」と言っておられ、大変もったいない話だと思います。
写真は、月面探査車(ローバー)で、6年後には月に行くのだそうですが、なんとなく学生のローバー大会に出てくるローバーと大差がないような気がします。
担当の方が、「まだこんなものしか出来ていなくて」とおっしゃっていましたが、これも、アメリカが「月だ」と騒いでから急に立ち上がったプロジェクトなのかもしれません。
どうか、またアメリカが「やーめた」とか言った時点で素晴らしい技術だけが残り、「技術は出来たが実現には予算がない」と延々と言いつづける、などということだけにはならないようにしてもらいたいものです。
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コメント
空飛ぶ車は超人機メタルダーのメタルチャージャーに似ている。
http://www.geocities.co.jp/playtown-Dice/4403/bantaka/metaruda/metaruda.html
http://www.youtube.com/watch?v=vVaox1CSPjY
投稿: 釣本直紀 | 2007/03/04 10:25