ふえるわかめちゃんのルーツは超ハイテク研究所
理化学研究所 横浜研究所の一般公開を見学してきた。
理化学研究所は通称「リケン」と呼ばれる。ところで「リケン」といえばもちろん「ふえるわかめちゃん」だ。なんとこの二つには実は意外なつながりが。そして横浜研究所の超ハイテク研究とは?。わくわくする2008年7月5日一般公開のレポートです。
(写真は横浜研究所のNMR施設を中心とする建物群)
理化学研究所とは
理化学研究所は、明治時代に、「日本にも科学の基礎研究を行う研究所を」ということで設立され、みなさんもきっと教科書で読んだことのある有名な科学者たち、たとえば、原子の構造を解明した長岡半太郎や、味の素の池田菊苗、 第二次大戦中に日本でも原子爆弾を研究していたといわれる仁科芳雄など、が所属していたところです。
しかし、3代目所長の頃には、大変な財政難だったそうで、この時、理研が考えたのが、「研究成果を事業にして、その売り上げで基礎研究を行う」というものでした。
こうしてまず、ビタミンAの錠剤が事業化されて大ヒットし、当時予算の8割をこれでまかなったといいます。
技術をビジネスに使うことを「けがらわしい」と言った、という伝説のある某宇宙系の研究開発機構に、爪のアカでも煎じて飲ませてやりたいような話です。
「ふえるわかめちゃん」は理研ビタミン
このビタミンA錠剤の事業会社として生まれたのが「理研ビタミン株式会社」、そうです。「ふえるわかめちゃん」の会社ですね。「リケン」は理化学研究所の「理研」だったんです。
理研の事業化はこれにとどまらず、次々と行われ、戦前には理研コンツェルンといわれる大財閥になっていました。この資金をもとに、科学者たちは制約のない自由な研究ができたと言われています。
現在に残る企業では、カメラやコピーの「リコー」は元の名前が「理研光学」だし、「オカモト」も「岡本理研ゴム」です。
残念ながら、戦後、理化学研究所は、財閥解体や、原子爆弾の研究をしていたことなどのの影響で解体されました。現在の理化学研究所は、旧理研の流れを汲んで、後に国によって新たに特殊法人として発足されたもので、現在は独立行政法人となっています。
(上記2項目中の詳細はWikipediaを参考にしました)
横浜研究所はバイオ関係の研究が中心
理研は日本の中心となる基礎研究所として、広い範囲の研究を行っているそうですが、ここ横浜研究所は、バイオ関連の研究が多いそうです。
さすがにわかめちゃんの研究はやっていないようでしたが、写真はトマト。「ジベレリン」というホルモンがある場合(左)と、ない場合(右)ではこれだけ発育が違うそうです。
バラとゴジラと沢口靖子
バイオを研究するのに、横浜研究所の設備には大きく2つあって、一つはタンパク質などの「分子」を調べるもの、もう一つは「遺伝子」を調べるもの、のようです.
写真は、来場者に配っていたものですが、重イオンビームという放射線をあてて遺伝子を破壊したアサガオの種で、遺伝子を破壊した影響で、2世代後には、どんなアサガオが咲くかわからないんだそうです。
目篭「怪獣になる可能性もありますか?」
研究所の人「あるかもしれませんよぉ~。楽しみに育ててください(^^)」
目篭「確かビオランテという怪獣は、ゴジラとバラと沢口靖子の遺伝子を掛け合わせてできたんですよね?」
などと、目篭が知ったかぶりの馬鹿な発言をしたその途端に、事件は起こりました......。
理系の女性はピュアでシャイ
「私もその映画は見ましたが、あれは『細胞融合』といって、遺伝子操作とは全く別の技術です」と、隣の研究者の方にツッコまれてしまいました。
それで、その方のお顔を拝見すると、これがなんとものすごく可愛い方で、あわててシャッターを切ったのですが、「恥ずかしい!」と顔を真っ赤にされてしまい、写真には本当に真っ赤になった顔が映っていたのです。(当然掲載許可もいただいていないので、写真は画像処理をさせてただきました。)
文系で可愛い人は、自分の可愛さを良く知っていて「どう、可愛いでしょ」っぽいポーズになることが多いのですが、理系の研究者で可愛い方は、すごく恥ずかしがられる事が多いですね。
タンパク質の結晶を作る女の子
今日は一般公開なので、見学者がいろいろな実験をすることができます。「分子」の研究に関連したところでは、タンパク質の結晶を作る実験をしている女の子。
どんな結晶ができるかというと
これは、上の女の子と同じ実験を、私もさせてもらって撮影したもの。デジカメを顕微鏡に押し当てて撮りました。
「惑星」などの写真では焦点距離が∞なので、同じやりかたでもピントを合わせやすいのですが、顕微鏡はそうはいかないようで、ピンボケになっているのはごめんなさいです。
なおこれは、「リゾチーム」というタンパク質の結晶だそうです。
「分子」の代表選手はNMR
この記事のトップにある写真で、銀色に光っている、いかにも研究所、という感じの建物がNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)棟です。NMRは超伝導磁石が作り出すものすごい強さの磁気を使って、分子の様子を探ります。なので、銀色の建物は、中に入るとわかりますが、磁気の影響を受けないように、写真のようになんと「木造」だったんです。
医療用では「輪切りの私」
NMRは、医療用では、写真のように、体を切らずに脳や内臓など体の中を見ることができる断層撮影(NMR-CT)として使われています。
しかし、NMR-CTは「水」の分子しか見ていないそうで、横浜研究所のNMRはもっといろいろな分子を調べることができるのだそうです。
インスタントとレギュラーコーヒーの違い
それがどんなことの役に立つかというと、たとえば、インスタントとレギュラーコーヒーの味の成分を比較してみると、実は、インスタントコーヒーは、味として「酢」が足らないことがわかるんだそうです(写真の赤色の→の所)。酢にひたしたスプーンで、インスタントコーヒーをちょっとかき混ぜてやると、レギュラーコーヒーの味に近くなるとのこと。
世界最大のNMR施設
写真の中央にある銀色のものは横浜研究所最大、世界最大級(現在ではもう少し大きいものが他にあるらしい)のNMR装置ですが、写真の左端にくまちゃんがいるのがわかるでしょうか。一般公開日なので、皆がここで記念写真を撮るのです。
横浜研究所には47台のNMR装置があり、このクラスのNMRがこんなにある所は他になく、世界最大のNMR施設とのことです。
なんでそんなにたくさん必要かというと、「タンパク3000プロジェクト」というのがあって、世界中で手分けして、ヒトのタンパク質の基本構造を調べよう、その中で日本は3000個を分担しよう、ということで、NMR装置をたくさん並べて、力任せに解析をしたらしいです。
このプロジェクトは平成19年3月に終わったそうで、「終わった後、どうするんですか?」と伺ったところ、民間企業など他の研究機関が使える共同利用施設となっているそうです。まだまだPR不足だそうなので、利用できる方は、是非利用してあげてください。
今度は遺伝子
さて、次は遺伝子です。一般公開では、いろいろな催しがありますが、写真は、パズルになっている遺伝子の模型を並べる女の子。この歳から遺伝子!です。
アルコールパッチテストは大人気
私の方は、自分がお酒に強いか弱いかがわかる「パッチテスト」を受けることにしました。
このテストはすごい人気で、各回定員50人なのに、朝10:30頃に行ったのですが、11:00と13:30の回はすでに満員で、15:00の回になりました。
お酒に強いか弱いかは遺伝子ですでに決まっている
結果は、自分ではわりと強いつもりだったのですが、「やや弱い」でした。
お酒に強いかどうかは、実は生まれたときから遺伝子で決まっていて、ALDH2という遺伝子の、ある部分がGなら(ALDH2*1)お酒に強く、A(ALDH2*2)ならお酒に弱いのだそうです。遺伝子は2つで一対になりますから、*1/*1だと強く、*1/*2だとやや弱く、*2/*2だと弱い、ということになります。
遺伝子で決まるということは、遠距離恋愛があまりないとすれば、その地方によって、お酒の強い人の割合が決まってしまうということにもなります。東北や四国や南九州に呑んべえが多いのは、遺伝子で決まっていたんですね。
遺伝子の特定の場所を調べる装置
この研究所には、たとえば先ほどのARDH2遺伝子の特定の部分がAかGかなど、遺伝子の特定の部分の違いを調べる装置がいろいろとあります。写真のキラキラ光っているところに遺伝子を載せて....
モニターで見ると、特定の場所がたとえばGなら緑に、Aなら赤く(ちゃんとメモッていなかったので、逆かもしれません。すみません)表示されるというものです。
同じ所についてたくさん調べる装置
上の装置は、いろいろな遺伝子の特定の場所について一度に調べることのできるものでしたが、遺伝子の同じ場所に絞るかわりに、たくさんのサンプルを調べる機械もあります。動画でごらんください(音が出ますので注意)
世界最高速のコンピュータも
横浜研究所では、研究を支えるためのスーパーコンピュータの開発も行っています。
このマシンは、2006年6月の時点で世界最高速だったマシン。
専用の回路を使って高速化する方法を取っていますが、専用回路は開発に時間がかかるため、開発している間に、一般のコンピュータの性能がどんどん進歩するので、おおよそ、開発の開始段階で100倍ぐらいの性能を想定して作りはじめ、5年ぐらいかかって完成した頃には10倍くらい。それでその時点の世界最高速になって、あと5年ぐらい使うと、一般の機械と変わらなくなってしまうんだそうです。
みんなの役に立たなければ意味がない
今回、研究者の方々からお話を伺っている中で、「みんなの役に立たなければ研究をやっている意味がない」という言葉を何度も聞きました。
旧・理研コンツェルンの時代には自ら事業をやっていたわけですが、現在は独立行政法人として、企業では採算の取りにくい基礎研究や研究設備を提供する立場に変わっているとはいえ、研究者の皆さんがこのようにおっしゃるところに、脈々と流れる「理研魂」のようなものを感じます。
写真は横浜研究所にあるメンデルのブドウの木
遺伝といえばメンデルですが、教科書で習ったのは確かエンドウマメだったのでは?
実は、彼は修道院の人で、遺伝の研究は良いワイン(ブドウ酒)を作るためだったそうです。「ワインはキリストの血である」ので修道院ではワインを造るわけですね。
この木は実際にメンデルの修道院にあったブドウから挿し木で作られたクローンだとのこと。
また、来なはれ
バイオは全くの素人なので、今回はさっぱり勘所がつかめず、ちょっと大変でした。宇宙も素人といえばそうなのですが、昔、ゼミの先生が「物理屋と化学屋ではずいぶん考え方が違う」と言っていましたので、宇宙はITと同じ物理系で今回は化学系だからでしょうか。
それと、 前回コネタ道場の道場主からコメントをいただいたので、今回は、試しに写真を少し大きくしています。(テンプレートの関係で、この大きさが限界です)。
いろいろチャレンジしたつもりですが、みなさんのご感想はいかがだったでしょうか。
※写真は、順路の一番最初の所に置いてある、武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース2年 木村麻緒さんの『良き哉!』(2007年。所属は当時)という作品です。
武蔵野美術大学と理研横浜研究所が共同で行っている学生作品展示プロジェクト「EXHIBITION2008」の一環のようです。(2008.07.16追記)
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