アメリカ民間宇宙開発最新事情 2008STSJツアー報告(その1)
民間による宇宙開発と、旅行会社による宇宙観光旅行の募集が始まってから久しい。今、民間宇宙開発と宇宙旅行はどこまで進んでいるのか。
STSJ(The Space Tourism Society Japan :直訳すると宇宙旅行協会日本支部)の2008年ツアーに参加して、モハベ空港をはじめとするアメリカ民間宇宙旅行の最前線を見てきました。カリフォルニアの青い空と、民間宇宙開発をお楽しみください。
※写真はモハベ空港の公園に展示されているロトンATVロケット。モハベ空港で最初にテストされた宇宙機です。
民間宇宙飛行の”聖地”モハベ空港
モハベ空港は、民間宇宙開発として世界で最初に宇宙(高度100km以上)に到達した宇宙船SpaceShipOneを飛行させたところです。
看板に「CIVILIAN FLIGHT TEST CENTER(民間飛行テストセンター)」とあるとおり、民間開発の機体が試験飛行する所なので、宇宙飛行を目指す企業各社が飛行場の周りに集まっています。
写真はモハベ空港の入り口にある看板で、写真の機体がSpaceShipOneです。
Scaled Composite社は立入禁止
そのSpaceShipOneを作ったScaled Composite社は、現在、6人の旅客を乗せて宇宙に飛ぶ、SpaceShipTwoを製作中です。
残念ながら見学は許可されませんでしたので、外側から社屋を眺めるだけでしたが、この社屋の中で世界初の観光宇宙船が組み立てられています。
SpaceShipTwoの説明
社屋だけでは味気ないので、ちょっと模型でご説明。真ん中の銀色の機体がその宇宙観光船SpaceShipTwo。乗員2名、乗客6名を乗せて宇宙に行きます。
両側の2つの白い機体はWhiteKnightTwoと言って、SpaceShipTwoをつり下げて高度15Kmまで運んでいって、発射するための航空機です。
WhiteKnightTwoの実物は、我々が行く1ケ月ほど前にすでに完成しており、モハベ空港で完成披露があったところでした。(写真の模型は、日本でのクラブツーリズム主催のWhiteKnightTwo発表会当時のものです。)
※なお、この記事を書いた約1年後、同じモハベ空港で、ついに完成したSpaceShipTwo (WhiteKnightTwoではなくて)のお披露目パーティがあり、こちらには私も参加できました。
「ついに完成!!民間観光宇宙船 アメリカ・モハベ空港、発表会潜入レポート」
に書いています。SpaceShipTwoの写真も満載ですので、↑リンク先を是非お読みください。(2009.12.09追記、一部記事修正)
モハベ空港管理局Business Operations DirectorのTom Weilさんとランチをご一緒した後、ビデオによる空港の紹介と合わせて、お話を聞きました。
Tomさんの話では、SpaceShipTwoが2010年に出来上がったとして、アメリカ連邦航空局(FAA)の認可を得るのにテスト飛行を50回くらい行って安全性を確認するので、そのために3年くらいかかり、旅客を乗せて飛ぶのは2013年ぐらいになりそうだとの事です。
一見、民間宇宙旅行の実現が遠のいたように思いますが、実は逆に、テスト飛行や認可のスケジュールがほぼ具体的になった事は、現実になってきた証拠でもあります。
Tomさんは、(次にご紹介する)XCOR社のLinxの方が、テストが簡単な分、先に実現するのではないか、と言われていました。
XCOR社は、モハベ空港をとりまく宇宙開発企業の中で、今最も話題です。
もともと写真のようなロケット飛行機や、そのエンジンを作っている会社ですが、宇宙機であるLinxに最近有力なスポンサーがついたことで有名になっています。
Linx
で、これがそのLinx。写真はXCOR社の応接に飾ってあったもの。
Linxは、パイロット1名、乗客1名の2人乗りで高度60Kmまで上昇し、約3分間の無重力体験と地球観望が楽しめます。
国際航空連盟(FAI)の定義では高度100Kmからが宇宙ということになっていますので、厳密にいえば「宇宙」旅行ではありませんが、空は真っ黒で、地球観望の様子はほとんど変わりませんし、無重力も楽しめます。
しかも費用はSpaceShipTwoの半額(10万ドル。日本円で約1100万円)の上、前述のTomさんのお話のように、こちらの方が早く実現する可能性があります。
Linxモックアップ
XCOR社の工場にはLinxのモックアップが置かれていました。まだ最終的な形ではないとの事ですが、中に座って記念写真を撮ることもできます。
オービタルサイエンス社
モハベ空港には、この他にもいろいろな民間宇宙開発の機体が集まっています。
写真はオービタルサイエンス社が使用中のもので、旅客機を改造したものの下にロケットをつり下げ、高度12kmくらいから発射して、人工衛星などを打ち上げます。
モハベ空港では、テストパイロット訓練施設の「National Test Pilot School」も見学しました。
Space X 社
モハベ空港で紹介してきたのは、数分間の宇宙旅行を楽しむ「サブオービタル(弾道軌道)」飛行を目指す企業ですが、ロサンゼルスには、民間企業で「オービタル(衛星軌道)」つまり、国際宇宙ステーション(ISS)がある高度400kmクラスの宇宙飛行を目指しているSpace X 社があります。
内部の見学はできましたが、機密保持が厳重で、カメラ等は持ち込めませんでしたので、これも社屋の外側の写真です。
DRAGON有人カプセル
と、いうだけではつまらないので、昨年のXPRIZE Cupに展示されていたSpace X社のDRAGON有人カプセルの写真を。
DRAGON有人カプセルは国際宇宙ステーションにドッキングして、人や物資を輸送するものです。この写真は、エンジニアリングモデルですが、Space X社内では、最終的な環境試験のためのクオリフィケーションモデルが作成の途中で、これを打ち上げるためのFALCON9ロケットも含め、思ったより多くの部分が出来上がっていました。
FALCON9より少し小型のFALCON1ロケットの方は、完全な成功とは言えないまでも、2号機ですでに高度300kmを達成しており、この8月には3号機で1段目と2段目が衝突するというトラブルがあったばかりですが、もう次の4号機が9月中の打ち上げを目指して、ちょうど見学の翌日に搬出予定とのことで、包装された機体が見れました。
X PRIZE 財団 Marc Schulmanさんの話
XPRIZE財団は、「最初に宇宙飛行を実現した民間企業に1000万ドル」という懸賞を企画し、SpaceShipOneを生み出す元になりましたが、上のDRAGONカプセルの写真で出てきた有人宇宙飛行のお祭り、XPRIZE Cupの開催元でもあります。
XPRIZE Cupがどんなに面白いお祭りかは、是非私の記事「アメリカのロケット野郎たち X PRIZE Cup 報告」を参照してください。
ツアーではサンタモニカにある、XPRIZE財団を訪れ、XPRIZE Cup担当者のMarc Schulmanさんにお話を伺いました。
残念ながら彼によると、スポンサーがつかず、現時点では、次回開催の目途が立っていないそうです。
2004年にSpaceShipOneが飛んだ時は大変に盛り上がっていたが、それから時間が経つにつれ、だんだんに企業の熱が醒めてしまったみたいだ、との事で、彼はスポンサーを捜しています。
ただ、海外からの引き合いは活発で、ドバイとかからは、是非開催したいとのオファーが来ているそうですが、武器輸出規制等の問題があって、海外での開催は難しいようです。
Luner Rocket and Rover 社
ツアーでは、ロングビーチにあるLuner Rocket and Rover 社も訪れました。有人ロケットではありませんが、無人で宇宙空間まで到達して各種の計測などを行うロケットです。
実は、ロケットは、社長である写真のRobert Kleinbergerさんが、外注はあるもののほとんど一人で作っているので、ロケットの仕組みを最初から最後まで、こと細かく語ってくれ、大幅な見学時間超過となりました。
(その2)に続きます。
STSJツアーの内容は、民間宇宙開発と宇宙観光旅行だけではありません。惑星探査やNASAが行っている官製の宇宙開発についても、各種施設を回ります。
続きは「本場アメリカで惑星探査を学ぶ 2008STSJツアー報告(その2)」でご覧ください。
※写真は、Luner Rocket and Rover でロケットのランチャー(発射台)を見学するツアーの一行。らせん状の筒の部分が90°上を向いて発射台になります。
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コメント
大変わかりやすい構成で忘れかけていたことも思い出してきました。いま思えばロスアンゼルスはとても暑かったですね。ツアー中はお世話になりありがとうございました。
投稿: 田中利彦 | 2008/10/15 17:23
田中さん、例会で発表されたんですよね?
出席できずすみません。どうもありがとうございました。
皆様へ、田中さんも同じSTSJツアーのメンバーでした。
投稿: 目篭 | 2008/10/15 21:07
改めて拝見させていただきましたが
ツアーは大勢でわいわいと楽しかったですね。
また日本で面白い動きなどありましたら
連絡お待ちしています!
投稿: 五月女 剛 | 2008/10/16 06:49
目籠さま
先月のMRP定例会で写真をスライドショーで報告しています。(目籠さんのようにまとまっていませんが・・)次回は12月予定ですので(日にちは未定です)またよろしくお願いいたします。
投稿: 田中利彦 | 2008/10/16 09:29
五月女さん、コメントありがとうございます。
ツアーでは本当に大変お世話になりました。
この記事が少しでもSTSJの宣伝になれば幸いです。
(五月女さんは、本文中に登場するSTSJの理事長です)
投稿: 目篭 | 2008/10/17 22:38
飛行機かっこいい★
小学校の時はパイロットになりたかったなぁ。
投稿: ことの | 2010/03/15 16:43