"ちきゅう"から帰ってきました 地球深部探査船一泊二日体験乗船
「"ちきゅう"から帰ってきました」と言うと「おまえはどこの星の人だ」と言われそうですが、行ってきたのは、地球深部探査船”ちきゅう”。
「なんで目篭が宇宙でなくて”ちきゅう”?」と思った人、
実は”ちきゅう”は「地球」という惑星の探査船なのですよ。惑星探査船、宇宙でしょ?。
一般市民対象では初めての一泊二日体験乗船との事です。何をする船なのか、中はどうなっているのか、そして泊まり心地は?。是非本文をお読みください。
とにかくでかい
"ちきゅう"の名称は公募で決まったものですが、名前が決まる前は「ゴジラ丸」と呼ばれていたそうです。
ゴジラの身長は、初代が50m、最後の作品あたりでは100mですが、"ちきゅう"は、写真の「デリック」と言うやぐらの高さだけで70m、船底からの高さは130mといいますから、まさにゴジラよりでかいわけです。
とにかく、あまりにもでかくて広角でしか撮りようがないので写真が全部湾曲しています。
なんでそんなにでかいのか
なんでそんなにでかくなければいけないかというと、”ちきゅう”は最大1万mの深さまで掘ることができるそうですが、一本で1万mのパイプはありませんから、パイプをつなぎ合わせて掘るわけです。
このパイプが仮に一つ1mだとすると、なんと1万回も繋がなくてはいけません。そんな事とってもやっていられませんから、一つのパイプはできるだけ長い方がいいわけです。
実際に写真の「ライザーパイプ」の長さは約27m。これをつなぎ合わせるには、すくなくともその倍以上の高さが必要なわけで、やぐらが70mもあるわけです。
パイプは二重構造
実は、パイプは二重構造になっていて、先に紹介した「ライザーパイプ」の中に写真の「ドリルパイプ」が入り、この「ドリルパイプ」が回転して、先端に付けた「ビット」で掘削を行います。
海底や地底では圧力が高いので、船から重い液体を注入して、切り屑を外に押し出すのですが、この液体と削り屑がライザーパイプとドリルパイプの間を通ります。
パイプを組み立てるのは
パイプを組み立てるのは、全部機械が行います。人間は、「ドリルルーム」という鳥籠のような部屋の中から、機械を操作します。事故を防ぐために、危険な作業はできるだけ機械が自動で行うように設計されているとの事。
ドリルルーム
このドリルルームは、密閉・加圧されています。海底や地底からガスが噴出した時などに、有毒ガスがドリルルームに入ってこないようにするためです。
見学のために扉をしばらく開けていたら、圧力が下がって、アラームが鳴ったりしていました。
噴出防止装置
ガスの噴出による事故を防ぐ装置はほかにもあります。これは、いろいろな種類の弁を持っていて、海底に設置し、ガスを、船ではなく海中に放出するための「噴出防止装置」です。
ドリルの先端につけるビット
話は少し戻りますが、写真は、「ドリルパイプ」の先頭に付けて、 掘削を行うための「ビット」。写真のものは、ただ掘るだけのものですが、試料を採取するためのものは、真中に穴があいていて、掘るというよりは、周りを削って中身を取り出す感じの物だそうです。
試料は研究棟に運ばれます
掘削やぐら(デリック)の所で採取された柱状の試料(「コア」と呼ぶそうです)は1.5m単位に切られ、研究棟に運ばれます。研究棟とデリックの間は30mくらい離れているでしょうか。これもガス噴出や爆発等からの安全を考慮しての事と思われます。
研究棟では、いろいろな分析が
研究棟では、いろいろな設備で、ありとあらゆるといっていいほどの分析が行われます。
今回、たくさんの装置を見せていただいたのですが、全部載せているとブログがいつまでたっても終わらないので、ほどほどに。ちなみに写真は、一番最初に使われるもので、病院にあるCTと同じものです。ただし、検査されるのは患者ではなく「コア(柱状試料)」
何を調査する船なのか
おっとしまった。そもそも"ちきゅう" が何を調べる船か、という話がまだでしたね。
"ちきゅう”の目的は大きく3つあるそうです。
(1)地震のしくみを調べる。
地震は、プレートという大きな岩の板のようなものが、大陸や日本列島の下に潜り込む過程で起きる、というのは映画「日本沈没」などでご存じかもしれませんが、”ちきゅう”では、そのプレートが潜り込んでいる境界面を実際に調べることによって、地震の仕組みを調べようとしています。
(2)微生物を調べる
深海底や地中には、実は、地上とは別の、ものすごい種類の微生物がいるのだそうです。
木星の衛星エウロパや、土星の衛星エンケラドスには水があり、地球外生命の可能性があると言われていますが、そこで発見される生命は、意外と、地球の深海底や地中にいる生物と似たようなものかも知れません。
(3) 実は誰も「マントル」まで掘ったことがない。
今までの地球探査は約2Kmくらいまでしか行っていないそうです。地球の半径は約6000km。惑星探査という前に、人類はあまりにも地球という星のことを知らなさすぎる、というわけです。
とりあえずは、地表の一つ下にある「マントル層」、"ちきゅう"の掘削能力(10km)で、この表面にまではたどりつけそうです。
※写真は、岩石に含まれる地磁気を測定するため、磁気を遮蔽してある部屋です。
「コア(柱状試料)」争奪戦
"ちきゅう"にはたくさんの分野の研究者が乗り込んでいるので、同じ「コア(柱状試料)」について、誰がその「コア」を分析するか、ということを決めなければいけないことがあります。
そういう場合は、「自分が分析することによって、いかに科学に貢献するか」という事をお互いにプレゼンして決めるのだそうです。
写真は、「コア」を今回の体験乗船のメンバーで取り囲んでいるところですが、実際には研究者が、同じような形で「コア」を取り囲んで検討します。
しかし、例外もある
しかし、例外もあります。微生物は空気にあてると死んでしまったりするので、みんなで分ける前に、微生物の人は先に取っていいことになっているそうです。
写真は、微生物を培養するための装置。
顕微鏡実習もありました
体験乗船では、顕微鏡実習もありました。写真は放散虫というプランクトンの化石で、10万年ほど大きな変化がないため、現在の同じ種が温かいところにいるとすると、化石が発見された地層もプランクトンが生きている時代は温かかった、などと推定できるのだそうです。
いろいろな安全設備が
研究棟にもいろいろな安全設備が施されています。写真は天井から生えている、空気を吸う装置。研究室はドリルルームとは逆に減圧されていて、研究室の外に、有毒ガスが広がらないようにしているのだそうです。
洗う装置
写真は、緊急時に有毒なものを洗い流すシャワーと、目を洗う装置
ランドリーもあります。
洗う、といえば"ちきゅう"にはランドリーのシステムもあります。汚れものを袋に入れて各自の部屋の外に出しておくと、6時間ぐらい後には洗濯されて戻ってくるとのこと。
”ちきゅう”でごはん!
洗う話が続いたところで、よく手を洗って、このへんでごはんにしましょう。
”ちきゅう”の食堂はバイキング形式になっていて、いろいろなメニューがあります。
ケーキやソフトクリームなんかもありました。
"ちきゅう"はおいしい
二日目の昼に、おかずの「全種類」に挑戦してみようと思った結果がこれですが、完全に皿からあふれています。サラダバーやデザートはこれとは別です。
量だけではなく"ちきゅう"の食事はおいしいです。料理そのものはそれぞれどこにでもあるようなものなのですが、一つ一つの味がおいしいのです。
個室はビジネスホテル並み
食事のあとは寝る所の話。寝室はほとんどが個室になっていて、豪華客船の客室とはいかないまでも、ビジネスホテル程度の設備にはなっています。
ただ、ホテルと違って目覚まし時計が設置されていないのは盲点でした。
体験乗船なのでスケジュール通り行動しなければいけないのですが、腕時計のアラームだけで起きれたのは奇跡でした。
でもそれだけぐっすり眠れたということで、泊まり心地は○(マル)だったと言えるでしょう。
ジャグジーやサウナも
個室にはシャワーしかないのですが、共用部分にはジャグジーやサウナがあります。
これがサウナ。昔の調査船では、寝室がなく、ハンモックだったりするものもあったそうですが、数か月に及ぶ航海を考えると、"ちきゅう”では、食堂や個室の設備もあわせて、「人間が普通に働く場」として、できるだけ快適に過ごせるような配慮がなされているのがわかります。
避難訓練もありました。
体験乗船では、一泊二日とはいえ、正規の乗員と同じ扱いとなるため、「医師による健康診断書」の提出が必要でお医者さんに書いてもらったりもしましたが、乗員扱いということで、避難訓練もありました。
個室ごとにどの救命ボートに乗るかが決められており、避難訓練では、各救命ボート毎に整列します。
救命ボート
で、これがその救命ボート。母船がガス爆発等の危険があるため、普通の救命ボートと違って、上から炎が降って来ても大丈夫なように、密閉構造になっています。
左右に2隻ずつあり、片側が火事で救命ボートに行きつけない場合を考えて、片側の2隻だけでも全員を収容できるようになっています。
安全の上にも安全を考えた設計
"ちきゅう"では、安全の上にも安全を考えた構造や設備になっているのが印象的でした。
研究者の中の一人か二人は「研究のために死んでもいい」と思っている人がいてもおかしくはありませんが、掘削を行う技術者や、船を動かしたり食事を作ったりする船の乗員は、仕事としてやっているわけで、別に死にたいわけではありませんから、当然といえば当然です。
ある意味では、「安全」ということに過剰と言えるまでに配慮する日本の技術開発ならではの船だともいえます。
しかし、そこで思ったのは、民間宇宙開発との違いです。
宇宙で何かあっても、死ぬのは宇宙船に乗っている数人の人たちだけで、他にはだれにも迷惑はかかりません。そしてその宇宙船に乗っている人たちは、少なくとも現時点では、パイロットも含めて『宇宙に行ければ死んでもいい』と思っている人たちです。民間宇宙開発は、バンジージャンプと同じ自己責任の世界なのです。
いろいろな目的をもった人が同じ船に150人も乗り合わせている"ちきゅう" とは違います。
『事故でも起こって人が死んだら、組織全体が潰されてしまう』という事を理由に、有人宇宙開発を行わない宇宙関係の組織があると聞いていますが、同じような安全への考え方をもとに、日本での民間宇宙開発の発展を阻害しようとしているのだとすれば、それは大変困った事だと思います。
※(お礼) 記事とは関係ありませんが、この場所で告知しました2008/10/12の民間宇宙開発と宇宙旅行のイベントはおかげさまで大盛会でした。ありがとうございました。
日本科学未来館「友の会」の主催
今回の体験乗船は、お台場の日本科学未来館「友の会」が行った「リアル・ラボ@ちきゅう」という催しでした。
写真はお世話をしてくださった日本科学未来館の皆さん。一般市民としては初めての一泊二日体験乗船。"ちきゅう"乗員の皆さんが実際に仕事をされている中への乗船ということで、実現には大変な苦労があったことと思います。本当にありがとうございました。
実は、今回の体験乗船は抽選だったので、当たってラッキーでした。
抽選の確率が減るので、あまりPRしたくはないのですが、皆さんも日本科学未来館「友の会」に入っておくと、今回みたいに、他の人が見れないものが見れたり、他の人が行けない所に行ったりすることができるかもしれません。
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コメント
地球深部探査船”ちきゅう”の1泊2日の乗船体験記を見て記憶が新たによみがえりまりした。この乗船体験の一員に抽選で選ばれたことがラッキーであり、関係者の方々にお礼を申し上げます。いま日常生活に戻って顧みると改めて貴重な体験をさせて頂いたと実感しました。感謝しています。まだ説明しきれない程多くの体験記があると思いますが限られた範囲で良くまとめられています。今後もこのような体験記を乗せてください。
投稿: 竹平 忠司 | 2008/10/09 07:33
わかりやすくまとめられていて感動しました。
私のブログでも少しづつ書いていきますので見に来てください。
見学会ではありがとうございました
投稿: watanabe | 2008/10/09 13:25
竹平さん、watanabeさん、
コメントありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
皆さんにご紹介しておきますと、竹平さんもwatanabeさんも、ご一緒に「リアル・ラボ@ちきゅう」で体験乗船をしたお仲間です。
投稿: 目篭 | 2008/10/09 22:14
「ちきゅう」は見学したことあるけど,乗船しそこねました.トラブルがあって直前でキャンセル.今思うと残念.1回でいいから食事したかった.
ところで,コア(Core)=柱状試料,試料(Sample)≠資料 です.細かい話で済みません.気になったもので・・・
最後の写真に写ってるのは,未来館のH場さんかな?
投稿: 通りすがり | 2008/10/16 21:47
通りすがりさん、ありがとうございます。
地球科学方面は知り合いがいないので、確認することができず、記事が合っているかずっと不安でした。
資料→試料 資料(コア)→柱状試料(コア)と直しましたが、直し方はこれであっているでしょうか?
最後の写真は未来館のH場さん(H葉さんかと思っていました)です。大変お世話になりました。放散虫が専門とか。
投稿: 目篭 | 2008/10/17 01:54
あのー、目篭さんって13年位前にNiftyのCBでよーくお話してた目篭さんと同一人物でしょうか?ネットサーフィンしてたらここを見付けてプロフィール見る限り、同じ人かなぁと。あの時は宇宙の話なんかしてた覚えがないので違うかも?でもこんなハンドル珍しいしなぁ…私のハンドルを覚えていたら、コメントのレス下さい。ビンゴでしたら、再レスでメアドを書いておきます。
投稿: アイリス | 2009/01/08 15:05
アイリスさんお久しぶりです。
当たりですよ。
宇宙関係に手を出しはじめたのは5~6年ほど前なので、CBの頃は確かに宇宙なんてやっていませんでしたね。
アイリスってフィアナの旦那さんだったっけ?どうもこちらの記憶もあいまいになっていますね。違っていたらスミマセン。
投稿: 目篭 | 2009/01/09 00:02
あぁ!!ビンゴとは!!
ご無沙汰です。続きの個人情報は、ウェブ上には現れないメアドまでご連絡下さい。またこちらから返信します。因みに、フィアナさんはハズレですよ、残念ながら。
投稿: アイリス | 2009/01/10 22:58
はじめまして,朝倉書店という出版社の太田と申します.
現在,弊社では『地球と宇宙の化学事典』という書籍を制作中です.書籍中の[海洋科学掘削と展望]という項目で「ちきゅう」に関する記述が出て参りまして,読者の理解を助けるべく,写真を掲載したく考えております.ページ冒頭の「ちきゅう」の外観写真の転載許可をいただけますと大変助かります.
写真掲載時には(写真提供:●●●●)のように,提供元を明示いたします.
もしよろしければ,私のメールアドレス宛にご連絡いただけますと幸いです.
どうぞよろしくお願いいたします.
投稿: 太田 | 2012/06/08 13:20
朝倉書店 太田様
6/9まで海外旅行をしておりまして、コメントに気づくのが遅くなり、失礼いたしました。
詳細はmailにてご連絡いたしましたとおりですので、よろしくお願いいたします。
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なお、これをお読みの皆様にご注意申し上げます。
このブログ「目篭版D.P.Z.(別館)」に掲載している写真は、特に断りのないものについては、すべて目篭本人が撮影したもので、権利は目篭本人にあります。
特にご依頼のあったこの記事冒頭の写真は自分でも大変良く撮れた写真だと思いますが、無断転載、コピー等は厳禁です。
最悪は法的処置を取らせていただくこともありますので、もし、必要とされる場合は、太田様のように目篭までご連絡ください。
(メアドはプロフィールにあります)
投稿: 目篭 | 2012/06/12 03:52