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2009/05/19

"新・しらせ"で仰天の発見 新・南極観測船一般公開見学

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 南極観測船として4代目の新・しらせが完成。4月26日に舞鶴のユニバーサル造船で一般公開されたので、見てきました。
 大きさは3代目のしらせとほとんど変わりませんが、目立たない所で、いろいろな改良が加えられています。見学している間に、なんとびっくり仰天の発見が!
"ちきゅう"以来、何かと船づいている目篭が報告します。

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新・しらせとは

Mokei

  新・しらせは日本の4代目の南極観測船です。3代目の旧・しらせ(11.500t)が老朽化したため建造されました。
  Wikipediaによれば、当初は約倍の20,000tの予定でしたが、予算不足のため、12,500tと、旧・しらせからほんの少ししか大きくできませんでした。更に予算がつくのが遅れたため、旧・しらせの退役に間に合わず、昨年の第50次観測隊は、外国から船を借りて行ったそうです。
 また、なぜ3代目と4代目が同じ「しらせ」という名前かというと、4代目公募の際、最初は「以前の船と同じ名前は駄目」と言って公募したのですが、「しらせ」という名前の存続を求める声が多く、それを受けて偉い人が、進水式の時に「『しらせ』にします!」と言い切ってしまったらしい。
 そんな決まり方でなければ「しらせII」とか「しらせ2世」とかいう、識別しやすい名前もつけられたのでしょうが、偉い人が言いきっちゃったので、一言一句変えられなくなってしまったのでしょう。(ちなみに「新・しらせ」「旧・しらせ」というのはこの記事でわかりやすいように書いているだけで、正式にはどちらも、単なる「しらせ」です)

 写真は新・しらせの模型。灰色の部分が砕氷能力強化ポイントのひとつ、ステンレスクラッド鋼板(厚さ39mm)。実際の船では鋼板の上からオレンジの塗装がされているので外から見てもわかりません。

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手作り風のゆるキャラが出迎え

Yuruchara

 さて、見学の入り口では、何やらゆるキャラぽいものの歓迎を受けましたが、よく見ると発泡スチロールを手で削って作ったようで、手作り感あふれるキャラクタでした。配っていた「南極の氷」は氷砂糖。

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前甲板とデッキクレーン

Maekanpan

 一般公開では、まず前甲板に上がります。写真は前甲板を右側のデッキクレーン後ろから写したもの。新・しらせでは、荷役システムがコンテナ輸送になって効率化されるのも強化ポイントの一つですが、コンテナを扱うのは、後部にあるもう一組のデッキクレーンで、一般公開順路からは見えません。

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医務室

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 順路の途中に医務室がありました。船内で手術もできるのだそうです。してみると天井にあるのは手術灯でしょうか。

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救命艇

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 これは救命艇です。密閉構造になっています。
 地球深部探査船”ちきゅう”でも救命艇は密閉構造でしたが、その理由は爆発などの火災時でも安全に避難できるようにということでした。
 南極観測船の場合は、氷山が崩れてくる可能性があるからでしょうか。それとも南極の極寒の中で「吹きっさらし」というわけにはいかないからかもしれません。

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艦橋はイモの子を洗うような..

Imonoko

一般公開ですので、艦橋はイモの子を洗うような混雑ぶりです。

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電子海図装置

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 新・しらせでは、機器がデジタル化されているのも改良ポイントの一つです。写真は電子海図装置。

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ブリッジモニター

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 ブリッジモニターはいろいろな情報を表示することができます。今映っているのは発電機の様子ですが、この他にも艦内のレイアウトや、風向風速など、種々の情報が表示されていました。

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GPS装置

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 艦橋の後方に設置されている、GPS装置と海図プロッタ。
旧・しらせでは、艦橋にジャイロコンパスと磁気コンパスが陣取っていたそうですので、新・しらせ建造までの26年間で一番進歩したのは、やはりこういったIT関係でしょう。

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ヒーリング装置

Healing

 ヒーリング、といっても癒し系の話ではなく、氷に閉じ込められた時に、艦を左右に傾けることによって氷を割り、脱出するための装置です。装置自身は旧・しらせにもあったものですが、新型に改良され、制御盤もずいぶん小型になっているようです。

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砕氷能力の向上

Sansui

 「氷を割る」ということでは、新・しらせは、旧・しらせより砕氷能力が向上しています。
 強化ポイントは3つ。1つは冒頭で紹介したステンレスクラッド鋼板。2つ目が写真の散水パイプ。船首の丸い穴がいくつも空いているところがそれで、この穴から、汲み上げた海水を撒いて雪を溶かします。3つ目は、より丸くなって砕氷に適した船体形状、とのことです。

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ここで仰天の発見!

Panel

 さて、順路で、艦橋の次に艦内に入ったところで、びっくり仰天の発見が。
 写真のパネルは、何か火災報知器のような警報を表示するパネルで、いろいろな部屋の名前が書いてあるのですが、なんと矢印の部分に....

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「武器部」!

Bukibu

 なんと、「武器部」です!。
 「小火器弾薬庫」と「第1火薬庫」です!。
 部屋自身は見れませんでしたので、実際に武器を積んでいるかどうかは確認できませんでしたが、とにかくそういう部屋があることは事実です。
 それもそのはず、南極観測船はすべて海上自衛隊の船なのです。これは、初代の南極観測船「宗谷」がもともと海軍の特務艦だったことから来ているようです。

 特撮・怪獣映画の話で恐縮ですが、特撮TV映画の名作、ウルトラQ第5話「ペギラが来た」では、怪獣ペギラに襲われた南極越冬隊は、武器を持たなかったので、仕方なく、観測用のロケットにペギラ撃退用の特効薬「ペギミンH」を詰めて打ち込むしかなかったのですが、新・しらせなら、ペギラが来ても安心、というわけです。

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寝室も...

Sinsitsu

 これが寝室なのですが、船の大きさが当初予定の約半分ということで、個室ではなく2人部屋になるのは仕方がないとしても、 以前に取材した地球深部探査船"ちきゅう”と比べると確かにどことなく軍隊風です。
 ちなみにこれは、運用する自衛隊の人の部屋ではなく、観測隊員の部屋。

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<参考>"ちきゅう"の寝室

Koshitsu

 参考までに、以前の記事の再録ですが、私が泊めていただいた”ちきゅう”の寝室。基本的に個室です。
 ちょっとしたビジネスホテルなみ。
 南極観測隊員も、”ちきゅう”の人と同じ研究者だと思うのですが、乗る船によってずいぶん待遇が違うものです。

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来賓室でやっと..

Raihinisitu

 こちらは、新・しらせの「来賓室」。
 来賓室でやっと、”ちきゅう”の一般寝室と似たようなレベルというところでしょうか。

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食堂

Syokudo

 これも観測隊員の食堂。やはりどことなく軍隊風です。
 こちらも参考までに"ちきゅう"の写真を次に載せておきましょう。

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<参考>”ちきゅう”の食堂

Chikyusyokudo  

 同じ角度からの写真ではないので比較しにくいかもしれませんが、それでも、雰囲気がずいぶん違うのがわかると思います。
 ”ちきゅう”の食堂はカフェテリア形式で、ファミレスみたいですよね。

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「酒保」は「売店」

Syuho

 新・しらせの艦内に「酒保」という所があったので、スタンドバーか何かかと思ったら「売店」の事だそうです。またまたwikipediaによれば、これはまさしく旧日本海軍用語。
 ちなみにお酒は艦長の許可がないと出してはもらえないそうです。

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募集もありました

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 と、いうわけで、さすが海上自衛隊の船です。見学の終わりの所では、自衛官の募集もやっていました。

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ヘリコプター格納庫と後部甲板

Kanpan

 自衛官の募集や、各種パネル展示がされていたのは、写真奥のヘリコプター格納庫。
 ここと写真の後部甲板を見て、一般公開の見学は終りになります。

  新・しらせの、もうひとつの強化ポイントとして、ゴミのリサイクル装置など、地球環境に配慮した船、という事がありますが、それに関する部分は今回の一般公開では見学できませんでした。
 地球環境といえば、よく出てくる話に『地球温暖化で南極の氷が溶けて...』とかいうのがありますが、それがわかったのは、南極観測隊員が永年にわたって、南極の氷を観測し続けてくれたおかげでしょう。

 JAMSTEC(海洋研究開発機構、地球深部探査船”ちきゅう”が所属している組織)などというものがなかった昔ならいざしらず、「新・しらせ」も、建造費はJAMSTECと同じ文部科学省から出ているそうなので、いつかは運用も海上自衛隊からJAMSTECに移管して、南極観測隊員が”ちきゅう”の研究者と同じように快適な環境で、観測ができるようになればいいのにと思います。

 ま、そうなれば「ペギラが来た!」時にはちょっと困りますが、そもそも「怪獣」というのは、1954年に円谷英二と田中友幸と本多猪四郎が生み出した、純粋に架空の存在ですから、その心配はありません。

 でもペギラがいないとすれば、「新・しらせ」の武器っていったい何のために...?

 ※ここでバックに、おどろおどろしいウルトラQのテーマがかぶさって流れているつもりでお別れしたいと思います。「ティラリラ~ティラリラ~ティリ~ン。」

(ちなみに南極にはシロクマはいません。あれは北極です。)

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コメント

突然のコメント失礼致します。
失礼ながら、相互リンクしていただきたくて、コメントさせていただきました。
http://sirube-note.com/self-defense-force-official/

もしよろしければ、こちらのページから相互リンク登録していただけましたら幸いです。
http://sirube-note.com/self-defense-force-official/link/register/
今後ともよろしくお願い致します。
B5QuHfEL

投稿: sirube | 2009/05/20 01:47

はじめまして。ニフティのデイリーポータルより来ました。
新しい「しらせ」の見学の記事を興味深かったです。観測隊員のお部屋についてですが、「しらせ」での船内滞在日数が少ないというのも関係しているのではないでしょうか。観測隊の方々は現在、オーストラリアあたりから乗船して帰りもオーストラリア辺りで下船して、日本に帰るということを以前の「しらせ」で聞いたことがあります。

投稿: おき | 2009/05/21 12:50

DPZより飛んできました。
沢山の写真楽しませていただきありがとうございます。

以下について1点だけ良いでしょうか。
>>いつかは運用も海上自衛隊からJAMSTECに移管して、南極観測隊員が”ちきゅう”の研究者と同じように快適な環境で、観測ができるようになればいいのにと思います。

写真を見せていただいた限りでは、「ちきゅう」の方が一般的な船(研究用含む)らしからぬ作りかと思います。
極限運用を想定する船の艤装を考えると(まあ一般的な船としてもそうですが)安全性の観点で「ちきゅう」の船室には違和感を覚えます。

「ちきゅう」の場合、質量が外洋フェリー並みだし、ボーリング中はほぼ固定されてしまう運用になるのであのような艤装が可能になるのではないでしょうか。(またはゲストが多いとか)

しらせの船舶としての運用を海自で行っているのは、南極がまだほぼ前人未到の地だった頃、文字通り極地での運用を行える人員として自衛隊員がのスキルが必要だったからではないでしょうか。

現在では、海洋大学の練習船も南極域に行けるくらいで、状況は変わっているとは思いますが、JAMSTECや他組織でもこのような連携を行えることは非常に大事なことだと思います。

南極観測においてははむしろ、船舶運用(しかも極限運用)を防衛省で行ってくれることに感謝していいくらいだと思うのですよ。

言いたいことを言ってしまってすみません。
私も来週横須賀のしらせ公開に行ってくる予定です。

それでは。

投稿: ばるばす | 2009/05/23 11:05

すみません。補足です。
海上自衛隊が南極観測船の運用を行ったのは2代目「ふじ」(第7次から)からで、その前は海上保安庁でした。(理由は単に海保が貧乏だった説がありますが...)
どちらにしても海のプロ無くして砕氷船の運用は無いと思っています。

それから食堂の写真ですがまったく「軍隊」的な作りでは無いと思うんですよ。一般商船でもそんなモンです。明確な「お客さん」を乗せる船ではないでしょうし。

「ちきゅう」の食堂の机は床に固定されていないと聞いてこっちの方がびっくりでした。

投稿: ばるばす | 2009/05/23 11:55

コメントいただいた皆様、諸事情でコメントRESが遅れましてすみません。
順次RESします。

投稿: 目篭 | 2009/05/23 16:04

sirubeさん、コメントありがとうございます。

 このブログは「科学的に面白いものや面白いこと」を記事にしています。
 特に自衛隊や自衛艦に特化したブログではありませんので、残念ながらsirubeさんのサイトとの相互リンクは控えさせていただきます。
 ただし、sirubeさんのコメントはそのままにしますので、この記事をみられた方がsirubeさんのサイトを参照されることはあると思います。
どうかそれでご容赦ください。

投稿: 目篭 | 2009/05/23 16:06

おき さん コメントありがとうございます。

 滞在日数の違いについて教えていただきありがとうございます。
この記事を読まれている方にも参考になったと思います。
 「日数が少ないから待遇が悪くてもいい」というのも、個人的にはどうかと思いますが、この辺の話は、ばるばす さんのRESにも関係しますので、ご一緒にコメントさせていただければと思います。

投稿: 目篭 | 2009/05/23 16:07

ばるばす さん 長いコメントをありがとうございます。

 コメントですので、思ったことを書いていただいて結構ですよ。謝られることはありません。

 ご意見の中で、「船舶の運用が違うので、"ちきゅう"には出来ても"しらせ”ではできないことがある」という点は確かにその通りだと思います。特に本文は修正しませんが、確かに、どの船も"ちきゅう”と全く同じ快適さにすることはできないとは思います。
 ”ちきゅう”のテーブルが固定されていなかったかどうかちょっと覚えていないのですが、確かに”しらせ”では、テーブルが固定されていなければ、氷割る時に困りますね。

 でも、同じ条件でも、たとえば最低限でも、船内の内装やデザイン(家具や壁紙など)は快適なものにできるはずです。たとえば一人一部屋にしなかった最大の理由は予算がなかったからだと思いますが、そういうのは南極観測船であるかどうかには関係ないですよね。

 私は、「研究上仕方のないことは我慢すべきだと思うが、それ以外のことについては、可能な限り日常生活と同じようにすべきだ」と思います。研究に関連すること以外は、研究者はまさに「お客さん」であるべきだと思うわけです。
 "ちきゅう"で感心したのは、さらに、研究者だけではなく乗員も、船の操作・運用など自分の業務に携わる事以外では「お客さん」扱いだという考え方に立っていること(たとえば食堂は全員が共通です)が素晴らしいことだと思いました。誰にも日常生活があり、それは可能な限り保証していくべきものだと思います。
 むしろ他の船がそうなっていないとしたら、他の船のレベルを上げていくべきだと思います。
 ここは ばるばす さんとはご意見が違うところで、たぶんいくら言い争っても違ったままでしょうからこれ以上は書きません。

 ただ一点だけ補足すると、"ちきゅう"も、研究者と乗員の安全を徹底的に配慮した船だと思います。記事の中でもそれは書いたつもりですので、それがうまく伝わらなかったとしたら残念です。

投稿: 目篭 | 2009/05/23 16:15

当初予定通りのサイズで建造されていたら、"ちきゅう"と変わらない設備になったかもしれません。実際は半分になっています。
代替艦の建造すら危ぶまれていたので、仕方ないですね。

投稿: K | 2009/06/27 00:42

Kさんコメントありがとうございました。
RESを書いたつもりだったのですが、うまくいっておらず、そのことに気付くのが遅くなりRESおくれてすみません。

当初予定通りなら"ちきゅう”のような設備になったかもしれないというのは私も思います。

ただ、だからといって「作ってやったんだから文句を言うな」みたいな話になってはいけないと思います。

日本人の科学技術離れは国家的な危機です。せめて労働環境を良くして、気持ちよく研究ができるようにしておかないと、後で大変なことになります。今さら言っても仕方ありませんが、20年間使う船だから、そういう所はケチらないで欲しかったと思います。

投稿: 目篭 | 2009/07/05 22:39

大変寒かった一日でしたが、それにもめげず詳細によくご覧になられていますね。感心しました。 ちなみに、軍隊風の食堂は実は部別にあります。 客船風の表現をすると、乗客と船員さんの区画はある程度のメリハリで仕分けられています。 船員さんに相当する自衛官の方々の部屋はもっともっと軍隊風です。
 ちなみに小火器が積まれているのはしりませんでした。 ただこれも万一の護身用(ペンギンが襲ってくるとはおもえませんが)であったり、また、万一氷が割れなかった際なのど、爆破用の火薬などではないかなとも思いました。 真偽のほどは知りませんが

投稿: root | 2009/07/17 22:54

先代しらせにも海賊対策のため小火器が載せられていました。

投稿: | 2009/10/22 06:05

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