がんばれ!国産宇宙観光船開発者たち 第27回ISTSから
アメリカでは今年末か来年に、宇宙旅行用の観光宇宙船が完成する。
では、日本ではいったいどうなっているのだろうか。私たちを宇宙旅行に連れて行ってくれるのは一体誰なのだろうか。
H2Bロケットなどの華々しい国家的プロジェクトの陰で、細々と、私たちみんなが宇宙旅行に行けるようにするために、がんばっている人たちの様子を、第27回ISTS(International Symposium on Space Technology and Science:宇宙技術および科学の国際シンポジウム)からお伝えします。
※お詫び
しばらく体調を崩していまして、レポートがすっかり時期外れになってしまいすみません。(実は、第27回ISTSは7/5~7/12に開催されました)
時事ネタにはなりませんが、日本で行われている観光用の宇宙船開発については、まだあまり知られていないので、まとめの意味であえて書くことにしました。
ISTSとは
ISTSとは、日本で行われる宇宙関係の国際シンポジウムで、今年はつくばで行われました。
国際シンポジウムですが、発表には通訳がつかないので、PowerPointから説明まで、全部英語で準備しなければいけません。
つくばは日本国内なのに、写真のように案内看板も、プログラムもみんな英語です。
なので、プレゼンでは、部屋がたまたま日本人ばかりでも、お互いたどたどしい英語でQ&Aをする、などという奇妙なことが起こったりします。
なんでこんなことになっているか、というと、一説には、米国主導型の宇宙開発の悲しい現実があるといいます。
たとえば国際宇宙ステーション(ISS)で、英語が使われるので、日本人宇宙飛行士と、つくばにある地上管制室の日本人が対話をするのにも、英語を使わなくてはいけないという決まりがあるのです。
宇宙開発を行うには英語ができないといけない。ISTSはそれをマスターするための格好の場所、というのは、教育上は有意義な事だろうと思いますが、それ以前に、そこまでアメリカ依存の宇宙開発って、どうなのよ。
アメリカ製の宇宙観光旅行に行く機体
その アメリカは、ISSのような国家プロジェクトだけではなく、民間の宇宙観光船開発でも先行しています。
以前にもご紹介した、観光客を乗せて宇宙に行く初めての機体SpaceShipTwoは、今年末か来年には完成の予定。
写真は、9/18~20にビッグサイトで行われた旅行博で、旅行会社クラブツーリズムのブースに展示されていた、その宇宙船の模型。
胴体が3つあるように見える真ん中がロケット機のSpaceShipTwoで、両側の胴体と翼はWhiteKnightTwoというジェット機になっていて、約15kmの上空でSpaceShipTwoを空中発射します。
外側のWhiteKnightTwoの方はすでに完成していて、アメリカのあちこちをテスト飛行で飛び回っています。
そして、日本からも、すでにこの宇宙船で行く宇宙観光旅行に申し込んでいる人が何人もいます。
それでは、日本でこのような研究や開発は行われていないのでしょうか。
日本での双胴機宇宙機研究
WhiteKnightTwoのように、胴体が2つある機体を双胴機といいますが、双胴宇宙機を研究している人が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の中にもいます。
羽生先生は、燃料や燃焼系が専門の先生で、正式な研究というより同好会的なものだそうで、まずは双胴機のラジコン模型を作って実験をされています。
写真は後述するエキシビション飛行中のものですが、小規模ながら空中発射の仕掛けもついているのがわかるでしょうか。
エキシビション一回目は...。
ISTSのエキシビションとして、、いくつかのテスト飛行があり、双胴機ラジコン模型のフライトもあったわけです。
一回目の飛行。フライト自身は前項の写真のように順調で、デモとしては成功でしたが、着陸近くになって、動画にあるとおり墜落してしまいました。
羽生先生は、エキシビションの司会をされていましたが、ご自身がお作りになった機体のようで、大変ショックを受けた様子でした。
「予備機がありますから、2回目はそれで‥」と言われていたのですが‥‥。
※以下、動画はすべて音が出ますので、ご注意ください。
まさかの2回目墜落
なんと、あろうことか、その予備機のデモも最後は失速して墜落。
この後にはお話を伺えていないのですが、さぞ無念だったことだと思います。
双胴機実験機の残骸
誰かが、双胴機の残骸が回収されて車に積んであったのを発見したので、窓越しに無断撮影。すみません。
さて、日本の民間企業で、宇宙旅行用の観光宇宙船を開発している人といえば、この人です。
緒川さんは、能代宇宙イベントの時にもこのブログでご紹介したことがありますが、お父様の代からのパルスジェットエンジンの研究家で、自ら会社を設立して、宇宙観光船を開発されています。
会社はあちこちのベンチャー企業のコンテストで優勝や入賞をしており、筑波大学をはじめ3大学3企業1研究機関と提携しています。
2014年を目標に、有人宇宙飛行をめざします。
パルスジェットエンジン機の燃焼実験
SpaceShipTwoは飛行機とロケット、2機の組み合わせで宇宙に行きますが、緒川さんの宇宙船は1機で、しかも1種類のエンジンでジェットとロケットを切り替えられるというスグレモノです。
今回の実験機は「パルスジェットエンジン」ですが、ロケットとの切り替えエンジンでの実証飛行試験は来年8月(~10月)を計画しているとの事です。
また、今年中に、より効率のよい「パルスデトネーションエンジン」にするとのこと。
動画で、炎を吹いている時は、実は不完全燃焼です。炎が出ず、甲高いプーンという音がしている時が順調に作動中。
残念ながらこの日は最後までエンジンの調子が悪く、エキシビションでのフライトは中止になりましたが、この機体はすでに静岡でのフライト実験に成功しているものです。
IHIの観光宇宙船
ベンチャーだけではなく、大企業の中でも、宇宙旅行用の観光宇宙船を研究している人たちがいます。
日本の大企業で、ロケットを作っているのはIHIと三菱重工ですが、まずはIHI。ISTSでの発表内容から。
IHIでは、コンピュータによる設計開発手法の事例として(というか、それにかこつけて,という方が本音かもしれませんが)、宇宙観光船の基本設計を行ったそうです。
この設計手法は、とにかくありとあらゆるパターンを全部コンピューターの中で設計していまい、それを片っ端から評価して、一番いいものを採用しよう、という、どちらかというとコンピュータパワーによる力任せの総当り制みたいな設計手法です。
図は形状の例です。尾翼の形やエンジンの場所など、いろいろなパターンがありますが、それを一旦全部のパターンをコンピュータの中に作ってしまい、その中で条件の一番良いものを選んだのが右の形状です。
宇宙観光船の基本はこういう形が一番いい、ということですが、ただし、これはデザイナーのデザインがまだなされていない、要素を配置しただけの形状です。
65000パターンの中から
この設計では、なんと65000パターンの宇宙船をコンピューターの中に作り出し、それをいろいろな条件でふるい落として、最後に一番よい宇宙船を選び出しています。図がその選び出す過程。一つ一つの点が、設計された宇宙船です。
この研究は、設計手法の研究としては会社から認められた研究ですが、宇宙観光船を作ること自身が会社の事業として認められたわけではありません。
宇宙観光旅行が事業として成り立つかどうかは、別のチームが研究しているそうです。
三菱重工は
三菱重工は、先日、H2Bという日本最大のロケットの打ち上げを成功させた会社ですが、「宇宙観光旅行が事業として成り立つかどうか」という研究を社内的にやっている、という発表がISTSでありました。
1機あたりの乗員の数や、一機あたり何回宇宙と往復すれば採算が取れるか、などといった検討が行われているようです。
実は宇宙船のCG画像もあったのですが、「ブログに掲載してもいいですか」とお聞きしたところ、「あれは急遽昨日の夜作ったもので‥‥(オーソライズされたものではない、という意味)」とお断りされてしまいました。
発表資料公開の了解が得られなかったので、写真は、ISTS展示会での三菱重工ブースの写真です。
三菱重工でも、この研究を行う事自身は認められているものの、だからといって、宇宙観光船開発にGOが出たわけではないようです。
H2Bの成功はすばらしい成果ですが、是非一般市民みんなを宇宙に連れて行く宇宙観光船開発の方も、積極的に進めてもらいたいものです。
筑波大学のハイブリッドロケット打上げもありました。
エキシビションでは、宇宙観光船実験機の他に、筑波大学ハイブリッドロケットの打ち上げもありました。
筑波大学のハイブリッドロケットは能代宇宙イベントの記事でも紹介しましたが、今回は本拠地つくばでの打ち上げ。見事打上げ成功です。
写真取れてなくてすみませんが、分離=パラシュート開傘も成功でした。
みっちゃんも元気です
そして、筑波大のロケットと言えば、忘れてはならないのがこの人。ロケットガールでも活躍してくれたみっちゃん。学部1年生の時から伝説を作った彼女も、もう大学院生、早いものです。
その研究室というのが...。
そのみっちゃんがいる筑波大の研究室というのが、なんとPDAS緒川さんの話に出てきた「パルスデトネーションエンジン」を研究しているところ。写真はISTS展示会に出展されていた、そのパルスデトネーションロケット。
展示会にはCAMUIロケットも
宇宙旅行用の宇宙船の開発はしていませんが、日本のロケット開発ベンチャーの代表といえば、CAMUIロケットのカムイスペースワークス。
CAMUIロケットはハイブリッドロケットで、ロケットの打上げはすでにかなりの実績がありますが、ハイブリッドロケットは安価にできるので、同じクラスの固体ロケットの10分の1以下の費用での制作をめざしています。
写真は、CAMUIロケットの伊藤先生と、ロケットプレーンの代理店でもあるニュースペースコンサルタント社の須磨さん。正面に展示されているのがCAMUIロケットです。
ロケットプレーンからCAMUIを打つ
なぜ須磨さんがCAMUIのブースにいるかというと、ロケットプレーンから空中でCAMUIロケットを発射して人工衛星を打ち上げるという提携がおこなわれているからです。
ロケットプレーンもSpaceShipTwoと同じアメリカの宇宙観光船ですが、そういう使い方もあるわけです。
ちなみにロケットプレーンは1機で、ジェットとロケットの2種類のエンジンを切り替えて宇宙に行く方式。
写真はCAMUIブースに展示されていたロケットプレーンXPの模型です。
学生の宇宙開発は世界最高レベル
CAMUIブースの隣は、UNISEC。UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)は学生の人工衛星やロケット開発を統括する組織で、能代宇宙イベントの共催団体でもあります。
写真手前にあるのは、東海大学の「回収に成功したハイブリッドロケットとしてCAMUIより高く飛んだロケット」。同じカテゴリのロケットでは国内最高高度のはず、とのことです。
丁度、エキシビションに来て講演されていたロケットガールや能代宇宙イベントの仕掛け人、元秋田大学で現在は和歌山大学の秋山演亮先生によれば、「日本の宇宙開発は外国に比べてパッとしないが、大学での宇宙開発教育はレベルが高く、世界中から注目されている」んだそうです。
写真後方は、その秋田大学のハイブリッドロケットです。
惑星探査車など
動画は、原田精機の惑星探査車(動画はものすごい音が出ますので注意)。
コンセプトモデルとの事で、実は上に積んでいる太陽電池では、本体を動かすだけの電力は得られないそうです。
このほかにも、展示にはいろいろと面白いものがあったのですが、宇宙旅行用の民間宇宙船からは話がどんどん外れていくので、このへんで。
先日、横浜開港博Y150でJAXAタウンミーティングがあったので、JAXA立川理事長に「JAXAは宇宙観光旅行用の宇宙船は作らないんですか?」と聞いてみました。答えは「作らない」。理由は「どこの国でも、公的な機関が観光用の宇宙船を作っている例はない」でした。
「誰もやっていないから、やってみよう」の精神でなければi-モードなんてできなかったと思うので不思議な感じですが(立川理事長は元ドコモ社長)それはさておき、大きな勘違いがあると思うのは、一般の人たちが「宇宙開発」を支援する本音は、いつかは、自分たちとは言わないまでも、子供や孫、あるいは遠い子孫になるかもしれないが、宇宙に行ける事を夢見ているからだと思うことです。
月探査も、火星探査も、外惑星探査ですらも、それは将来みんながそこへ行くための基礎研究であり、だからこそみんなも研究を支援していますが、その本音はやはり「いつかみんなが宇宙旅行」だと思います。
恐ろしいお金、それもみんなの税金をかけて、何千人から選ばれた、たった数人のエリートだけが宇宙に行くことを皆が容認しているのも、彼らが切り込み隊長であり、それを実験台にして「いつかみんなが宇宙にいける」ための布石だと思うからでしょう。
だとすれば、今、月や火星や静止軌道ではないものの、みんなが気軽に宇宙にいける手段が実現しつつある現在、最初にするべき最優先の開発は、決して「軍事衛星」や「月探査」などではなく、まず「宇宙観光船」が正解なのではないでしょうか。
無理解な上層部に苦しみながら、あるいは自ら起業して、わずかな予算の中で、細々と「宇宙観光船」を作ろうと日夜大変な苦労をしながら、少しでも早くみんなが宇宙に行ける日のためにがんばっておられる、巨大企業,・団体の中の、あるいはベンチャー企業の、皆さんにもう一度大きなエールを送りたいと思います。
写真は横浜博Y150 JAXA宇宙飛行士向井千秋さん監修の「アースバルーン」
(バルーンに映像を投影しているもので、合成写真ではありません)
| 固定リンク
コメント
東海大学学生ロケットプロジェクトの園田と申します。
私たちのロケットをご紹介いただきありがとうございます。
細かいことなのですが、こちらの写真の機体は
「CAMUIより先にハイブリッドで高度1kmを達成しちゃった」
機体ではありません。
最初に1kmに到達したロケットは空中分解を起こし、今も北海道の大地に眠っています…。
この機体は「回収に成功したハイブリッドロケットとして」CAMUIより高く飛んだロケットです。
2009年の3月に打ち上がり、到達高度は1.3kmで回収に成功したハイブリッドロケットとしては国内最高高度のはずです。
ISTSでは機体に関する細かい説明が抜けてしまっていて申し訳ありませんでした。
「世界」に向けて胸を張れるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします!
投稿: 園田@TSRP | 2009/09/26 01:32
園田様
機体の件、すっかり勘違いしていまして、大変失礼いたしました。さっそく本文を修正しました。
コメントのままだと文章に重複があるので、若干いじってしまいましたので、それでまた違っていなければいいなと思っていますが、園田さん自身のコメントも上記に公開されていますので、どうかご容赦ください。
以前にお名刺もいただいていたので、事前に確認すればよかったですね。申し訳ありません。
今回、関係の方全員に事前に確認しきれておらず、ご迷惑をおかけいたします。他の方も誤りがありましたら、お手数ですが是非ご指摘ください。修正いたします。
投稿: 目篭 | 2009/09/26 03:27
まとめ記事ありがとうございます。
ISTS行けなかったので助かりました。:-)
1点だけ、補足させて頂きますと、
H2Bの開発費は、試験機を除くと、180億円程度なので、
数千億とはかなり開きがあるかもしれません。
JAXA理事長のコメントですが、
お膳立てが仕事だと思っているのかもしれませんね。
何はともあれこういった活動を私も応援していきたいと思います!
もっと諸外国と同じレベルの資金が投下されるようにならないかなぁ。
投稿: taro | 2009/09/26 10:50
taroさん、ありがとうございました。
実は、この箇所、もともと同じ主旨ですがお金ではなく別の事を書いていて、その表現を複数の方からご指摘を受けて修正したのですが、ちょっと公開をあせる事情ができて、書き直し後誰にも確認せずガッと掲げちゃった所です。
今回、直してまた間違えてもいけないので、金額等は削除して、文章は無難な表現に変えました。
大変助かりました。ありがとうございます。
あと「お膳立て」という話では、実は立川理事長とのやりとりには続きがあって、
目篭:「まず国鉄があってJRになったように、まずはJAXAがやって、
それを民間に払い下げる、というような形は考えられないですか」
理事長:「それは、考えられないことはない。しかし、それができると
して、30年はかかる」
JAXAが考える軌道往還機は(観光用ではありませんが)SpaceShipTwoのような7~8人乗りの小さなものではなく、もっと大きなしっかりしたものだそうで、ただ、そういうものは今言いだしたとして作るまでに10年はかかる、そこから実際に運用するまでが10年として、できるのが20年後だ、もしそれを民間に転用して宇宙観光船にするのは更に10年くらいかかるので、まあ30年後、というようなことでした。
アメリカでは来年飛ぶというのにねぇ、というのが私の率直な感想で、JAXAが宇宙観光船をやらない、という話としては同じなので、本文では省略させていただきました。
投稿: 目篭 | 2009/09/26 17:08
目篭さま
TSRP 園田です。
修正ありがとうございます。
先日のイベントの際にはお世話になりました。
東海大は実績にしろ活動内容にしろ、広報が不足気味でお恥ずかしい限りです。
もう少しきちんと情報発信出来るように広報活動の強化を考えているところです。
そのうちに、付帯条件無しで「CAMUIより高く飛んだ。日本で一番だ!」と言えるロケットを作れるよう、頑張って参ります(笑)
投稿: 園田@TSRP | 2009/10/09 02:26