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2010/01/10

最先端技術でヘンなもの作れ!           ~SIGGRAPH Asia 2009 展示会より~

Title

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  SIGGRAPH(シーグラフ)というイベントがある。コンピューターグラフィックの学会とその展示会で、アメリカでは35年の歴史がある。
 だが、その内容はとてつもなく「ヘン」なものばかりだ。
 どんな風に「ヘン」かというと、私の投稿も時々デイリー道場に採用されている「デイリーポータルZ」のヘンさに似ているのだが、「デイリーポータルZ」との違いは、使われているのが正真正銘の最先端技術だという点だ。

 そんなわけで、気になってはいたのだが、わざわざアメリカまで見に行くのはちょっとつらい。(と、いいながら宇宙船なら見に行くくせに、という話はちょっとこっちにおいといて)
 
 ところが、昨年12月、ついに日本、それも横浜でこのSIGGRAPHが開催された。

 さ、行きますよ!最先端技術を使ったヘンテコの数々。みなさん、お覚悟を!(劇場版スケバン刑事の矢島雪乃風に)

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エコな自転車

Humanpotential

 エコな自転車、というとみなさんはどんなものを想像するでしょうか。
 この展示では、人が自転車をこぐと、その力で電気が起き、その電気で野菜に光があたり、ポンプで水が供給されます。
 一生懸命こぐことで、野菜が育ち、その野菜を人が食べることができます。出展者は一生懸命ペダルをこいでいました。
 なんてエコなんだ。いや、ちょっとまてよ?何かおかしい、とおもったあなた、だいたいこの展示会がどんなものか、方向性がうっすらとわかりかけてきたのではないかと思います。次に行きましょう。

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立体コピー

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 これは立体コピーです。つまり立体物をそのままコピーする。上の写真ではイメージがつかめない人のために、解説のビデオからとった写真を次に載せます。

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 昔、コピーの紙を置くところに人間が乗って「電子リコピー、うぃ~ん、うぃ~ん」とか言うと、コピーの出てくるところからペラペラの人間のコピーが出てくるマンガがありました。
 出てくるものは立体ですが、やっていることはまあ、そういうものです。って、それをマジにやるところが最先端技術。

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 こちらはコピーの出力側。写真で撮っても平面にしか見えませんが、実際はちゃんと立体像です。チェックしてほしいのは、下にあるプロジェクターの数。立体を表示するためにたくさんのプロジェクターがあるわけですが、ちょっと考えただけでもどれだけお金がかかっているかわかりますね。

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戦うビニール傘

Kasa

 なんでこういうものにお金がかけられるのか、という秘密をこの展示で説明しましょう。
写真はビニール傘ですが、四角い箱がついています。赤は中身を見せるために一部切り取ったところです。
 中に電子回路が入っていて、加速度を検知して、それをパソコンに送ります。パソコン側では、その加速度によって音を出す。それでいったい何ができるか。次の動画をごらんください。

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 スクリーンの画像を撮ったので、変にゆがんでいるのはご容赦ください。
 つまり、チャンバラの音が出る。

 やっている人が思いっきり楽しそうなのはおいといて、実は、これは、さきほどの電子回路のプログラミングを簡単に行うための、開発用ソフトウェアの研究でした。
 開発用ソフトを作るための研究ですから、そのソフトを使って実際に作る具体的な対象は、ある一定の条件を満たせば、なんでもいいわけです。そして、どうせ、なんでもいいなら、そりゃ面白い方がいいですよね。

 決してビニール傘でチャンバラをするためにお金が出ているわけではないのですが、開発ソフトがちゃんと研究成果を出している限り、そういうことができるわけです。

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輪切りのアナタ

次は、ちょっと、光が強くてわかりにくいかもしれないのですが、まずは動画をみていただきましょう。

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Volumeslicingdisplay

 下の光源からの距離と傾きを計算して、表示する画像を変える、というすごい技術なのですが、やっていることは『そこにいるはずの透明人間の輪切り』です。
 下の方にすると下の方の断面、上の方にすると上の方の断面、斜めにすると斜めの切り口が表示され、上下に動かすと、全体でそこに透明人間がいるような感じになる、はずです。表示が微妙にズレるので、必ずしもそういう風に見れるわけではありませんが、少なくともやりたいことはわかります。

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ぞわっ!

 これは「ある動物の毛皮に、圧電素子で特定の振動を与えると、急に毛が逆立つ」というものです。

 簡単に言うと「ぞわっ!」というアレです。人間も含め、生物の毛が逆立つ仕組みはよくわかっていませんが、とりあえず任意に再現できるようになったことがすごい事です。

 ちなみに「何に使えるかは今検討中」との事でしたので、「演劇とかで、毛皮を来た女性が驚いた時に、これで”ぞわっ”というのを表現したらどうでしょう」と提案しておきました。

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無限ビリビリ

Infinitpapertearing

 この装置は「紙を破る体感覚を繰り返し体験できる装置」だそうで、紙を破る時に人間が感じる圧力や音を機械で再現しています。(実際の動きは下の動画でごらんください)

 人間の頭は、どの感覚を使って「紙を破っている」と認識するのか、ということを研究するのは人間の仕組みを知るために重要なことです。
 それはそれとして、『無限に紙を破っている気にさせる機械』は、イライラした人が紙を浪費しないで済むので、エコに貢献する...んでしょうか。

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「手」に「目」

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 SIGGRAPHの展示には、今まで主に紹介してきた「Emerging Technologies(最先端技術)」ともう一つ、「Art Gallery(アートギャラリー)」があります。アートギャラリーは、「芸術」を表現するためにコンピュータ技術を使うもので、そのコンピュータ技術は必ずしも最先端とは限りません。最初の「エコ自転車」なんかはアートギャラリーです。

 さて、写真もアートギャラリーのもので、手にはめるグローブにカメラがついていて、両方の手で見た映像と、普通に前を見ている映像が、ゴーグル上で合成されます。

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 ゴーグルから見える画像はこんな感じ。下の左右にあるのが、「手」から見た映像です。Ten_line_4

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 作者の制作意図は決してそうではないと思いますが、一瞬『ああ、頼むから満員電車や階段なんかで使わないでくれよな』という気がしましたが、考えてみると、こんな怪しげな格好をした奴がいたら、そういう事は全然しなくても、まず真っ先に疑われるのはそいつなので、心配は無用だと思います。

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世界中の天候がわかる傘

Climateshifts

 これは、リアルタイムに、世界の天候や世界のいろいろな場所で起こっているニュースが映し出される傘です。一見、雨の日が楽しくなりそうで、よさげな感じですが、Ten_line_6

 Projecter

  これを実現するために、なんとこんな高い所からプロジェクターで投影しているわけです。
 将来、技術が進歩してプロジェクターがものすごく小型で明るく、至近距離から投影できるようになれば、実用化されるかもしれませんが、それを現在の技術でやってしまうところもまたSIGGRAPHです。

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ゴキブリを手で叩く

 みなさんは、ゴキブリを手で叩きたいと思ったことはあるでしょうか。誰でもそんなキタナイこと願い下げだと思いますが、もし、完全に清潔な環境でそれができるとしたら?

 この展示は、人間の手と、振動を検知して、映像のゴキブリが反応するものです。
私は、アート(芸術)というのは美しいものという先入観があるのですが、どうやらそうではないらしい。それにしても、このゴキブリの数!。

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蚊が「ブ~ン」

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 虫系つながりで、次は「蚊」。
 説明文によると、『コンピュータから蚊に刺激音を与え、蚊の連動音とシンクロし、他の音を加え、相互的音楽を創造する』との事です。
 簡単にいえば蚊の「ブ~ン」という音を取り出して、音楽にするわけです。

 
ブースは写真のようになっていて、右下の装置に蚊がセットされており、終始「ブ~ン」という音がしていました。壁には蚊の拡大映像が投影されます。

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 これが装置の拡大写真。あいにく出展者が不在だったので、この蚊はダミーですが、デモをする時は、出展者が実際の生きた蚊をセットして行うそうです。

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仮想現実(VR)とは

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 ヘンなものの話ばかりしていますが、SIGGRAPHはコンピュータグラフィックスの学会なので、ちよっとまじめな話もすると、仮想現実(VR)という技術があって、専用のゴーグル(ヘッドセット)をかけた人には、実際に見えるものと、コンピューターからの出力が合成されて見えます。
 写真の例では、机の上には何もありませんが、ゴーグルをかけた人(手前)には奥の画面に表示されているように、字を描いているように見えているわけです。
(落書きしても汚れないので便利かもしれません)

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超本格的なセットで「幽霊」

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 「怪談」というこの展示では、左側の奥にいるヘッドセットをかぶった人には、右側の映像にあるように、幽霊と、自分が持つ剣が見えています。部屋のセットは現実のものです。

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 で、ポイントは、仮想ではなく現実のほうの、おどろおどろしい部屋のセット。
 映画会社の東映に作ってもらったという、本格的なものです。
 
  多くの映画撮影所が次々と閉鎖される中、こういった大道具、小道具から衣装・髪結など、映画に必要なすべてのものを一社で供給でできる映画会社は、今や東映だけになってしまいました。
 永年にわたって蓄積されたノウハウで、現実にはない空間をそこ作り出す。実はこのセットこそが本当の「仮想現実」なのかもしれません。

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ものすごく可愛い方でした

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 女性が手に持っているオレンジ色のボール、実はこれが3次元マウスになっていて、画面の中のものを三次元的に動かすことができます。
 (ボールを動かしてゲームをする様子は、下の動画でご覧下さい)

 それ自身、すごい最先端技術ですが、これを載せたのは、わけがあります。
 この写真を撮ったのは後ろからですが、「後で記事に使うかもしれない」と思って何気なく、『今、この写真を撮ったのですが、後ろからなので問題はないと思うのですが、ブログに載せてもいいでしょうか』と、この女性に声をかけたのですが、
 そこで初めてご本人の顔を見たら、ものすごく可愛い方でした!。
「しまった、前からの撮影許可をもらえばよかった!」と思った時は後の祭りで。

 写真のようにダウンを着ているので、単なる見学者だと思っていたのですが、後で、企業展示のブースのステージで、この格好のままで踊っておられたのを見かけたので、ひょっとしたらプロの方だったのかもしれません。

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企業展示もあります。

Panoramaballvision

 SIGGRAPHには、「Emerging Technologies」や「Art Gallery」の展示場とは別に、一般の企業展示を行う展示場があります。こちらは、普通にコンピュータグラフィックス関係の展示会、という感じですが、せっかくなので少しだけご紹介。
 これは、ナックイメージテクノロジー社のブースに展示されていた「Panorama Ball Vision」 橋本典久さんという方の作品のようですが、完全な球体をしたディスプレイです。

 ディスプレイ全体で360°情報を表示しているわけで、それを実現するのはものすごい先端技術だと思うのですが、あれこれ考えても、正直、『地球』以外に、完全な球体に映し出して役に立ちそうなものが思い浮かびませんでした。

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歌って踊れる女性型アンドロイド、HRP-03

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 企業展示の方では、産業総合研究所の歌って踊れる女性型アンドロイド、HRP-03のデモもやっていました。もうすでにみなさんよくご存知かもしれませんが、私のブログには初登場なので、一応ご紹介です。
 ひょっとしたら、別の時間帯には初音ミクのコスプレもあったかもしれないのですが、少なくとも私が行った時は残念ながら違いました。この姿でもよろしければ、歌っている所の映像を、下に載せておきます。
 ちょっと事情があって、ブレやすいカメラを、固定せずに使ったので、すごくブレているのはご容赦ください。

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SIGGRAPH Asia 2010年は韓国です

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 研究の目的や成果と、それを目に見える形にすることは必ずしも一致しません。
 なんか「ヘン」な事をやっていたとしても、それはわかりやすく理解してもらうための一つの応用例であって、それ自身が研究の中心ではない事も多いです。
 でも、理解してもらうことが目的なら、それができるだけ「ヘン」で面白いことはとてもいいことです。

 この記事をご覧になって「SIGGRAPHって面白い」と思われた方、残念ながら今年2010年のSIGGRAPH Asiaの開催地は韓国です。
 でも、「2009年の横浜が成功であれば、来年はまた日本で」という話があるそうで、2009年が成功だったのかどうか、実はまだ聞いていないのですが、ひょっとしたら、来年はまた日本開催になるかもしれません。
 その時は、「最先端技術で作るヘンなものたち」を、是非見に行かれてはいかがでしょうか。

 なお、今回のSIGGRAPH Asia 2009 の公式サイトはこちらです。

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