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2010/04/21

勝手に試飲会で「宇宙ビール」を味わう

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 サッポロビールが宇宙に運んだ大麦を使って作られた宇宙ビール(Space-barley)、昨年の1月には全国6箇所の工場で試飲会が行われ、抽選で選ばれた30組60人だけが試飲できました。私も申し込みましたが落選してしまい、とても残念でした。
  しかし、サッポロビールではその後、昨年の12月に250セットだけ宇宙ビールを限定販売することになり、今度は私も首尾よく入手することができました。

 でも、残念ながら、今回は「試飲会」ではなく、単にビールが手に入っただけです。
ならば、自分でやるしかない、「宇宙ビール」試飲会。独自企画であの日の夢を実現!。

 試飲会には、バージンギャラクティックの民間宇宙船で行く日本の宇宙旅行者、稲波さんと甲村さん(写真)も参加してくださいました。感激!

 レポートは、サッポロビール工場見学情報も満載です。

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まずは千葉工場見学

Chibakozyo

 昨年、本物の試飲会は、工場見学とセットで行われました。さすがに「宇宙ビール」はありませんが、工場見学は随時行われているので、まずは試飲前の工場見学から。

 サッポロビール千葉工場を選んだのは、工場の中では比較的家に近いから、というのもありますが、インターネットから見学の申込みができるのも理由のひとつです。

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ビールは何から造られるか

Genryou

 ビールの主原料はなにかというと、大麦から造られる麦芽、ホップ、水、の3つだそうです。
写真は千葉工場内の説明パネルから。

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「はるな二条大麦」を宇宙へ運んで

Nizyoomugi

 ビールに使われる麦は「二条大麦(Two-row-barley)」という、写真のように種子が2列についているものです。なお、列が6列あるものは「六条大麦」といって、麦茶の原料になるそうです。

 「宇宙ビール(Space-barley)」は、サッポロビールが開発した品種「はるな二条大麦」という品種の種を、国際宇宙ステーション(ISS)に5ケ月滞在させた後、その種の子孫を使って造ったビールです。

 もともと、岡山大学とロシア科学アカデミーの「宇宙空間でも、植物が地上と変わらないように育つか」という研究のために行われたものですが、長年の品種開発で膨大な研究データが蓄積されていた「はるな二条大麦」が選ばれたとのことです。

 原料に「宇宙に行ってきた麦」を使うということ以外、製造工程は普通のビールと変わらないので、せっかくですから、そのビールの製造工程を見ていきましょう。

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大麦は麦芽になり、麦汁になる

Shikomi

 大麦は、水にひたして発芽させたあと、熱風で乾燥して「麦芽」にします。

 色の濃いビール(琥珀色・黒いビールなど)は、この時、当てる熱風の温度を高くして作るのだそうです。(つまり、焦がしているわけ)
 ちなみに、今回限定販売された「宇宙ビール」は「宇宙をイメージさせるやや濃い目の色合い」に作ったとのことです。

 次に麦芽を粉砕して、温水や副材料を加え、マイシェ、というどろどろのおかゆ状のものにします。ここで麦のでんぷんが糖分に変わるそうです。

 マイシェをろ過し、ホップを加えて煮沸したりして、「麦汁」を作ります。
麦汁は、冷やされた後、次の工程である、発酵タンクに送られます。

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発酵と熟成

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「発酵タンク」で酵母を加えます。酵母が麦汁中の糖分を炭酸ガスとアルコールに変えます。炭酸ガスとアルコールが含まれた状態の「若ビール」を「熟成タンク」で数十日間熟成させることで、まろかな味になります。

 ビールに限らず、お酒を熟成させる必要があるのは、最初の状態ではアルコールと水が混ざってないからです。ゆっくり寝かせる(熟成させる)ことによって、水とアルコールが混ざっておいしくなるわけですね。

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千葉工場は量産工場

Tank2

 千葉工場の発酵・熟成タンクは、1つにビール大瓶93万2千本分が入るもので、これは一日1本飲むとして2550年飲める分量ですが、これが97本あるそうです。

 工場試飲会をした「宇宙ビール」は、大瓶換算で約150本ほど(100ℓ)の限定製造で、那須工場で作られたとのことです。那須工場や群馬工場にはこのような限定製造用の設備があるそうですが、千葉工場は、大消費地である首都圏向けの大量生産工場とのことです。

 写真は千葉工場。右側にならんでいるのが発酵タンクです。

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次は瓶詰め

Binzume

 熟成が終わると、酵母をろ過した後、瓶に詰めます。
 ここからは宇宙ビールとは若干工程が違いますが、せっかくなので最後まで見ていきましょう。
 写真の右上から入ってくる管でビールが送られてきます。写真右下のところで瓶にビールを入れたあと王冠で栓もしてしまいます。

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ラベル貼り

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 これは、検査が終わった後のビールにラベルを貼る機械です。右下に貼る前のラベルがあるのがわかるでしょうか。「黒ラベル」ですね(笑)。 

瓶詰めの機械も、ラベル貼りの機械も、最高1分間に550本の処理ができるそうです。1秒間に9本、瓶ビールができるわけです。

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ケースに入れる機械など

Kouzyounai

写真の中央にある機械が、瓶を空気の力で吸い上げて、ケースに詰める機械です。
8ケース160本分を一度に持ち上げて、後ろに見える赤いケースに入れます。

 工場は、見学者から全体がよく見えるように、中に柱が1つもない体育館のような構造になっています。

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柱が星の形

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で、両側の壁で天井を支えている柱は、サッポロビールの「星」の形をしています。

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おいしい生ビールまであとxxm!

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 これで工場見学は終わりで、見学者はこの後、試飲のできるラウンジに向かいます。
写真左の柱の所に「おいしい生ビールまであとxx m!」と書かれているのがわかるでしょうか。
ラウンジに行くまでこれが柱や入り口などに書かれていて、試飲への期待が高まります。

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「宇宙ビール」の試飲が行われたラウンジ

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 ここが、昨年1月に「宇宙ビール」の試飲が行われたラウンジです。
 試飲の時のエピソードをお聞きしたところ、「限定数のビールなので、千葉工場の人は誰も飲んでおらず、味を知っているのは工場長だけ」だったそうで、みんなさぞうらやましそうに参加者を見ていたんだろうと思います。

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ラッキーエビス

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今回私が参加したのは、ごく普通の工場見学でしたので、試飲は「宇宙ビール」ではなく「ヱビスビール」でした。2杯目からは「黒ラベル」も選べます。
 ラウンジには「ラッキーヱビス」の実物も飾ってありました。「ラッキーヱビス」は瓶ビールにしかないそうです。

実物を見たことがない人も多いと思うので、ちょっと写真を。

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いよいよ「宇宙ビール試飲会」

Kanpai

 お待たせしました。それではいよいよ、場所を変えて、「宇宙ビール試飲会」です。
 会場は、四谷三丁目にある「カフェ・ド・リバネス」というお店です。
 なぜこのお店を選んだかについては、後で説明するとして、「とりあえず宇宙ビール」で乾杯です。

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宇宙に行く人、稲波紀明さんの感想

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 それでは、宇宙ビールの味について、皆さんの感想を伺っていきましょう。
試飲会の参加者を募集したら、びっくりするような大物から申込が来て、正直焦ってしまいましたが、まず最初は、バージンギャラクティックの宇宙船で実際に宇宙に行く人、稲波紀明さんです。
 稲波さんは、ファウンダーといって、宇宙に行く最初の100人の一人でもあります。

 さて、稲波さんの、宇宙ビールのご感想は、.

 「とにかく、味が濃い。宇宙では、味覚が鈍感になるということで、宇宙食は味が濃くしてあるが、そういう意味では宇宙の味といえるかもしれない」

とのこと。

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同じく宇宙に行く人、甲村謙二さん

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 甲村さんも、同じくバージンギャラクティックの宇宙船で、宇宙に行く人です。
 宇宙に行かれる方は、自分のお好きなビールをこっそり持っていって、持って帰ってくればそれが「宇宙ビール」になると思うのに、試飲会に参加いただいて、ありがたい限りです。

 で、ご感想は、

 「味は濃いが、強いていうならば、日本の一般的なビールと、ドイツビールの中間のような味」

とのことでした。

 (バージンギャラクティックの宇宙船や、稲波さん、甲村さんはじめ日本の民間宇宙旅行者については、私の別記事「ついに完成!!民間観光宇宙船 アメリカ・モハベ空港、発表会潜入レポート」をご覧ください。)

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補足と目篭の感想

Spacebarly

 上で少しお話しましたが、ロシアと岡山大学が今回国際宇宙ステーションに「はるな二条」大麦を持ち込んで、いったいなんの実験をやったのか、というと

 「地球上の種子を宇宙で保管しても、変化がないかどうか」

 を確認するためだったのです。これによって、宇宙においても、地上と同じように、人間に有用な植物を栽培し、そして収穫物を長期保存できる可能性があることがわかったわけです。これにより、宇宙での食料確保に目途がついたということです。

 つまり、「地上と変わらない事」が実験の目的だったわけです。
 
 更に、最初工場で30組、60名の試飲をやった時のビールは、写真で見る限り、甲村さんのお言葉を借りれば「日本の一般的なビール」の濃さだったようです。

 そこで、千葉工場で伺ったもうひとつのエピソード。

 「宇宙ビールの味」にものすごく期待してきた人には、その「あまりの変わらなさ」にちょっとがっかりした、とのことでした。

 おそらく、そのことがあって、今回の試飲会で飲んだ、250セット限定販売のものは、製造工程で「宇宙をイメージさせるやや濃い目の色合い」に作ったのだと思います。

 色は濃かったですが、味は色から想像するほどは濃くなく、飲みやすい感じでした。

 どこが、「宇宙」かと言われると確かに困るのですが、言ってみれば、これが、サッポロビールの作り手の方の頭の中にあった「宇宙の味」のイメージだったのかもしれません。

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「リバネス」は「ホップ」の種子を宇宙に運んでいる会社です。

最初にお話したとおり、ビールは「麦」と「ホップ」から作られます。今回の「宇宙ビール(Space-barley)」は宇宙に運んだ大麦から作ったものですが、サッポロビールは次に「ホップ」も宇宙に運んでおり、山崎直子宇宙飛行士と一緒に地球に戻ってくることになっています。
 そしてそのためにサッポロビールが提携した、宇宙に種子を運ぶビジネスをやっているのが「リバネス」という会社で、今回試飲会を行ったお店「カフェ・ド・リバネス」も実はその関連のお店でした。

Hop

 ※写真は千葉工場で見せていただいたホップ。

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 そして、スペースシャトル帰還

Jaxai

 そして、山崎直子さんを乗せたスペースシャトルが2009年4月20日無事帰還しました。
 (写真は、丸の内のJAXA-iでスペースシャトル帰還の映像を見る人たち)

 「主夫」としてあまりにも有名になってしまったご主人の山崎大地さんが、私も属している有人ロケット研究会(MRP)の理事だった(直子さんのフォローのため、現在は一時的に休会中)こともあり、目篭も何度か直子さんご本人や、お嬢さんにもお会いしていますので、今回の成功はとても嬉しいものです。

 スペースシャトルの積荷の中には、宇宙から還ってきた「ホップ」も入っているはずです。

 サッポロビールが次に、宇宙に行った「麦」と「ホップ」を両方使ってビールを造るかどうかは、今の時点では不明ですが、もし実現するのなら、その時にはぜひ、今度こそ本物の試飲会に当選したいものだと思います。

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おかげさまで試飲会が実現できました。

Leavanest

 宇宙ビールの試飲会に参加することはあこがれでしたが、思いもかけない宇宙関係の大物の皆さんにご参会いただき、すばらしい試飲会ができました。

  また、いろいろとご協力いただいた、カフェ・ド・リバネスの皆さん、工場見学にあたり、写真撮影を特別に許可していただくなどお世話になった、サッポロビール千葉工場の皆さん、誠にありがとうございました。(写真はカフェ・ド・リバネス店内)

 ちなみに、リンクは下記のとおりです。

 ・カフェ・ド・リバネス(Cafe de Leavanest)

  宇宙ビールが置いてあるわけではありませんが、料理がおいしいお店です。

 ・サッポロビール千葉工場(工場見学)

 宇宙ビールは試飲できませんが、ヱビスと黒ラベルは試飲できます。
 工場見学には、今回の記事には書けなかった見所もたくさんありますのでゼヒ。

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おまけ

Akibin

 実は、この「宇宙ビール(Space-barley)」250セット限定販売のうえに、1セット(6本入り)で1万円、1本約1,667円もするのですが、試飲会といってもしょせんは宴会。
 宴たけなわになると、このとおり、どこにでもある、ただのビールの空き瓶になってしまいました。(おわり)

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